【 日本史魔談 】魔界転生(2)

【 地獄編第一歌/天草四郎の復活 】

今回は天草四郎を語りたい。あなたはこの悲劇の青年をどの程度知っているだろうか。彼が歴史の檜舞台に登場してから殺されるまでをざっと見ると、以下のようになる。

【 1637年 】
・10月:天草四郎登場。16歳。日本の歴史上最大規模といわれる「島原の乱」を起こし、一揆軍を率いた。
・12月:島原・天草の農民たちは原城(長崎県南島原市)に集結。総勢3万7000人。
【 1638年 】
・2月下旬:原城の武器&食料が窮乏。それを待っていた幕府軍(12万5000人)が総攻撃。ついに落城。皆殺しだったと伝えられている。

……というわけで客観的事実のみを調べてみると、彼が登場し、戦い、敗れた期間はわずか半年にも満たない。「彗星のように出現し、3万7000人の民衆を率いて戦い、圧倒的な幕府軍に敗れた」と言うことになる。

映画「魔界転生」の冒頭は、落城した原城の惨劇シーンから始まる。至るところに首が転がっている。首を突き刺した槍がずらりと並んでいる。天草四郎の首も名札つきでさらされている。何度もその首が出てくるので「ははあ、これは蘇るな」と思ってみていると、やがて天草ジュリー四郎はカッと目を開く。沢田研二は1948年の生まれなんで、この映画(1981年)の時は33歳。もう少し若い16歳あたりの美少年はいなかったのかと思ってしまうのだが、まあしかし監督は(メーキャップした)沢田研二の一種異様な妖艶さに期待したのだろう。

ともあれカッと目を開いた天草四郎の首は宙を飛び、次の瞬間には胴体とつながって見事に復活を果たす。
それにしても彼の耳元で「復讐のための復活」をささやいた悪魔はどんな姿だったのだろうと私のような男は想像してしまうのだが、残念ながらこの映画に(黒幕というべき)悪魔は登場しない。悪魔は登場しないけれども、その後は天草四郎本人が要するに悪魔の化身となって、次々に(現世に未練がありつつ死にゆく人を)口説いていくのだ。

確かにそうした設定、宮本武蔵をはじめ宝蔵院胤舜など名だたる武芸家を口説いて(彼らが死ぬ間際に)「もう少し生きてみないか」などと誘うのは16歳程度の若造ではちょっと無理な注文であるように思われる。ここはやはり一種異様なメーキャップを施したジュリー33歳にがんばってもらわなければいけない。ちなみに沢田研二の実家は鳥取県にあるが、彼は京都育ちである。この映画の天草ジュリー四郎が京都弁でしゃべっていたらさぞかし面白いだろうと私のような男は想像してしまうのだが、それではギャグになってしまいますな。

【 日本の歴史上最大規模の皆殺し 】

さて史実として伝わる天草四郎を見てみよう。
私が最も興味を持って調べたのは「どのような経過で、彼はカリスマになっていったのか」という点である。

【 時代背景 】
・小西行長(キリシタン大名)、関ヶ原の戦いで惨敗。
・その後、天草を収めた領主は実際の石高の2倍にあたる重い年貢を徴収。
・「キリスト教禁教令」が出る。
・大凶作。
・年貢を納められなかった妊婦、寒中の川にさらされ殺される。

……というわけで小西行長亡き後の領主は、ロクデナシですな。まさに絵に描いたような悪政。しかもキリスト教禁教令。さらに大凶作。信じがたい(妊婦の)虐待。これはもう民衆は爆発しないわけにはいかない。このような状況で天草四郎が出てくるわけだが、彼にはどのような魅力があったのか。
・母はマルタという洗礼名だった。
・まれに見る美少年だった。
・経済的に恵まれた幼少期だった。
・幼少期から学問に親しんだ。
・小西行長(キリシタン大名)の旧臣たちにかわいがられた。

【 おそらくは後世につくられたエピソード 】
・キリスト教禁教令が発令され、追放されたママコフ神父は「25年後に16歳の天童が現れ、天国が実現する」と預言して日本を去った。
・天草四郎が盲目の少女に触れると視力が回復した。
・海面を歩いた。
・白い衣装の下から鳩を出した。

……などなど、書き上げたらキリがないほど(どこかで聞いたような)エピソードは山ほどある。おそらくは天草四郎少年の美貌が全ての始まりだったのだろう。小西行長(キリシタン大名)亡き後の旧臣たちが「この美少年ぶりは只者ではない」といった気分で、そこに救世主降臨の輝きを見たのだろう。
かくして天草四郎は飾りたてられ、担ぎ上げられ、一揆軍のシンボルとなった。その姿は以下のように伝えられている。

白い絹の着物、はかま、頭には苧(からむし)を三つ組にしてあて、
緒をつけ、のど下にてとめ、額には小さな十字架を立てていた。
手には御幣を持っていた。

しかし一揆における実際の指揮系統は、戦場に長けた旧臣たちだった。天草四郎はあくまでも(戦意高揚のための)キリスト教的シンボルだったのだ。

落城の際、幕府側には四郎の情報が全くなかった。そのため16歳頃の少年たちの首が次々に持ちこまれたが、どれが四郎なのかさっぱりわからなかった。そこで(驚いたことに)四郎の母に首実験をさせた。母はいくつもの首を次々に見せられ、ついにある首を見て顔色を変え、泣き崩れたという。

戦場における人間はどこまで残酷になれるものなのか、想像もつかない。

【 つづく 】


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