【 魔の塔 】(13)ビリケンタワー

【 通天閣 】

京都タワーを語ったからには、お隣の大阪にある塔にも目を向けてみよう。なにしろここには語りたい塔がふたつもある。言わずもがなの「通天閣」と、じつに様々な物議を呼んだ「太陽の塔」である。今回は通天閣、次回は太陽の塔を語りたい。

さて大阪のシンボルタワーといえば通天閣。そんじょそこらのタワーと違い、じつになんというか大阪的な「おもろい塔」である。
現在の通天閣は、じつは2代目。初代通天閣は1912年(明治45年)に開業した。31年間建っていたが、1943年(昭和18年)、火事で焼け落ちた。通天閣から出火したのではない。すぐ近くにあった映画館からの延焼だった。その10年後の1953年(昭和28年)、「通天閣再建委員会」が発足し、1956年(昭和31年)に2代目が完成した。
昭和31年と言えば私が生まれた年である。全くの私事で恐縮だが、2代目通天閣は私と同い年なんである。

……ま、それはともかく、めでたく2代目が完成した頃は、年間でなんと155万人が通天閣に登った。この人数を単純に365日で割ってみると、1日になんと4246人があの小さな塔に登ったのだ。などと言うと「小さな塔たぁ、なんやねん!」と大阪人に怒られそうだが、通天閣の高さは108m。京都タワー(131m)の外観と高さに比べて、かなりこじんまりとした鉄骨タワーというイメージだ。

しかしその後ざっと20年が経過し、1975年には来場者数19万人。これまた単純に365日で割ってみると、1日に520人。確かに全盛期の4246人と比較したら閑散感は相当にあったにちがいない。
通天閣は「通天閣観光」が運営している。その社長は再建に意欲を燃やした。
「高さはもう売りにならん。これからはオモロサを売りにせんとあかん」
この「オモロイか、オモロナイか」という尺度、またそれをめぐる対策やら行動やら努力やらなんやらかんやらが、大阪はじつに面白い。そこで登場した、というか以前から登場はしていたのだが(笑)、通天閣復活の切り札として大きくクローズアップされたのが「神さまホトケさま、ビリケンさま」なんである。

【 ビリケンタワー 】

こんな笑い話(実話)がある。
大阪在住の友人は(かれこれ30年ほど昔の話だが)婚約時代に、北海道出身の彼女を通天閣に連れて行った。この一件だけで笑える。さすがは大阪人。私だったら、仮に婚約中の彼女がいたとして、京都タワーに連れて行こうとは絶対に思わない。そもそも私は、東京タワーにも、通天閣にも、太陽の塔にも、エッフェル塔にも登ったことはあるのだが、京都タワーに登ったことは一度もない。

……ま、それはともかく、友人の彼女はビリケンを見て驚き、というか、より正確に表現するならば「通天閣におけるビリケン祭壇」を見て驚き、「この塔は宗教施設だったの!」とドンビキしたそうである。

このエピソードは、爆笑した後であれこれ考えさせられる要素を含んでいる。ドンビキされた時に友人は婚約者になんと説明したのか知らないが、確かに通天閣におけるビリケンの存在は非常に大きい。単なる「通天閣キャラクター」では絶対にない。「通天閣観光」社長が歌う「ビリケン恋歌」。土産物売り場では「ビリケン絵馬」。七福神にビリケンを加えて八福神とし、フロアを一周すれば自動的に八福神のお参り完了というお手軽コース。おみくじを引いて「大吉」が出たら「ごっつエエがな!」と喜ぶビリケンの絵。「もうカレー」をオーダーしたら、ビリケンが描かれたカレーが出てくる。
「もうカレーってなに?」と思ったあなた。「儲かりまっか? あきまへんな」の「儲カレー」ですがな。

いまの日本は全国津々浦々の公共団体から企業から警察に至るまでキャラクターのオンパレードだ。クマやらフクロウやら、なんやらよくわからん奇怪なキャラまで山ほどある。ビリケンに対しても、同じような目で見る観光客やら外国人ツアー客やらがきっと多勢いるだろう。
しかしビリケンは単なるキャラではなく「神」である。なのでちゃんと祭壇もある。「飾ってある」というよりも「祭ってある」という風情だ。

観光客やら外国人はこれを見てどう思うのか知らないが、「おっ、そんじょそこらのキャラとはちょっと違うようだな」といった雰囲気は察知して、大いに面白がるかもしれない。まさか「えーっ、この塔は宗教施設だったの!」とドンビキする人はあまりいないだろうとは思うが、片やオモロイで、片やドンビキ。こういう神は、なかなかいない。

【 天望パラダイス 】

2019年12月、通天閣はまたオモロイ設備を追加した。
入場料(¥700)に¥500追加で、特別展望台「天望パラダイス」に行くことができる。この特別展望台にさらに特別な展望台を追加した。
それが「TIP THE TSUTENKAKU」(跳ね出し展望台)

早い話が、まるで飛び込み台のような「出っ張り」を追加したのだ。跳ねだし部分の長さ5.4m、幅1.5m、地上からの高さ92.5m。周囲が金網でおおわれているものの、先端部分の床はガラス貼りという恐怖効果倍増の(笑)サービスである。
「高さはもう売りにならんと言っといてなんやねん」などと笑ってはいけない。大阪は思いついたらなんでもあり。さすがは大阪のシンボルタワー。オモロイ商売してはる。

* ビリケンタワー・完 *

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