酷暑の夏である。暑さを克服できる映画がないかと考えたが、どうも思いつかない。この暑さだと映画館へ出向いていくのも一苦労だ。
しかし、キンキンにエアコンの効いた劇場で見てスカッとする映画にやっと出会った。近くのシネコンにサンダル履きで気楽に見に行った、トム・クルーズ主演の「ミッション:インポッシブル/フォールアウト」である。
「スター・ウォーズ」などシリーズ物はあまり見ない方だが(「SW」はさすがにもう飽きた。ファンの方御免なさい)、この「M:I」シリーズはほぼ毎回足を運ぶ。世界の各地の風景が描かれるのと、トムの体を張った吹替なしのスタントが好きだからだ。
これまで一番印象に残っているのは「M:I ゴースト・プロトコル」で、ドバイにある高さ800メートル以上もある高層ビルのブルジュ・ハリファをよじ登っていくトムの姿であった。
今回はそのアクションやスタントがさらにグレードアップされている。お話はパリとカシミールを舞台にプルトニウムを使って核爆発を行おうとするテロリストたちと戦う話だ。
トムは、まず飛行機から飛び出して落下していく。パリの通りではバイクをぶっ飛ばし、車を走らし、建物の屋上を延々と走る、走る、ジャンプして隣のビルに飛び移る。おまけにヘリにぶら下がり、ヘリを操縦し、果ては絶壁をよじのぼる。水平移動と垂直移動の両方を56歳のおっさんが体を張ってやっている。アンタはエライっ!
また、主人公イーサン・ハントが好きになった女が二人いるというのを初めて知ったが、別れた元妻(なるほどの理由あり)が出てくる展開もよかった。ほろっと来た。今回の映画は、そんな、情の面があるのも好きだ。
2時間半涼しい映画館で過ごし、料金はシニアでたったの1100円。有難いものである。尚、タイトルの「フォールアウト」というのは何回も映画で出てくる「落下」と、「(核爆発による)死の灰」という意味を掛けているのであろう。
さて、夏と言ったら、やはり若者は夏休みこそ輝く。現在公開中の「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」は、人生のかけがえのない時期の煌めきを映画的に魅力的に捉えている。
時代設定がおよそ20年前で今ほど暑くなかったころの、静岡の沼津を舞台にした話だ。
女子高生の二人が入学した高校で出会う。志乃は吃音を持ち、加代は音痴だ。この二人が一緒に音楽を始める。加代がギター、志乃がヴォーカル。志乃は歌う時は吃音が出ない。前半の、繊細な感情が溢れる二人の演技、海の街を的確に捉えた映像がいい。そして、2学期の文化祭での演奏を目指して、夏休み、練習のために二人が街に出て橋の上で少しずつ演奏していくシーンが見事に素晴らしい。流れる音楽と流麗なカメラワークの冴えに陶酔する。
これが新人監督の作品か。桁外れの新人だと思う。しかし、正直に言うと、後半の展開がやや辛い。これは見る人で評価が分かれよう。私の場合は、同級生の男の子との関わり、吃音の悩みの描写が若干くどく感じられた。
さて、今この時期も過酷な条件の下で映画製作を行っている人たちが沢山いることだろう。どうか体調を崩すことなく最良の作品を作っていってほしいと思う。
今回の好きな映画をもう一本!はTSUTAYAで借りたDVDだ。丁度30年前の日本映画「敦煌」を見直したのだが、これが中々に熱い映画だ。
11世紀の宋代、科挙の試験に落ちた若者が西夏という異民族の国に赴き、文字を学び文化を知る。友情も恋も経験し、交通の要衝にある敦煌の貴重な文物を守ろうとする、ロマンとスぺクタル性を持った堂々たる作品。
この映画は製作費45億を掛けて中国ロケを敢行している。美しい砂漠がカメラに捉えられ、異民族の激しい戦が描かれるが、ゴビの砂漠に日本スタッフが出かけて行き、何と50度にもなる砂漠で撮影をしている。映画にはスタッフや俳優の情熱が反映されている。
(by 新村豊三)
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