7月に森崎東監督が92歳で亡くなった。それほど有名ではないと思うが、ちょっと忘れられない作品を何本も撮っている。追悼の意味を込めて幾つか紹介したい。尚、11月21日からはシネマヴェーラ渋谷で20日間の追悼特集上映が始まる。
山田洋次監督(こちらも89歳、高齢だが新作を撮影中)と同じ時期に松竹に在籍し、後にフリーになっている。山田洋次の「男はつらいよ」シリーズの脚本も書いているし、第3作は監督もしている。
山田洋次が、長いキャリアの途中から、品のいい予定調和の喜劇を撮ったのに対し、森崎東は庶民あるいは庶民からもはじき出された人たちの、ガラの悪い、猥雑な、しかし人間味溢れる喜劇を多く撮った。
2015年に漫画が原作の「ペコロスの母に会いに行く」がキネマ旬報の一位に選ばれ、それが遺作となっている。遺作がベストワンになった監督はいない。代表作は、この作品以外に「喜劇 女」シリーズ、「生きてるうちが花なのよ死んだらそれまでよ党宣言」。
私が一番好きな森崎映画は「喜劇・特出しヒモ天国」(77年)だ。当時の東映の、ブルーカラー大衆向けの、面白ければ何でもいい路線に乗って、この映画は猥雑な活力とお色気に溢れた映画だ。
実は、DVDが出ておらず、大きなスクリーンで見たくてずっと上映を待っていたこの映画を始めてみたのは、4年前の「森崎東映画祭」の時であった。
京都のストリップ小屋を根城にして、地方巡業も行うストリッパー集団と、その女たちのヒモになっている男たちの群像劇である。ユニークで様々なストリッパーがいるのだ。年が50歳ほども離れた、爺さんと子供もいるおばさんもいれば、実は男で性転換をしようとしている女(?)もいる。
しかし、もっとも感動的なのは、二人とも聾唖の若いカップルだった。もともとは小さなラーメン屋を営んでいるが、子供を産むためにお金が必要になり、妻はストリッパーになる。ストリップは音楽に合わせて踊るのだが、耳が聞こえないために、特訓をして、上手に踊るために懸命な努力を続ける。マイク真木の「バラが咲いた」の音楽に合わせて、大股パッという動作が笑えて泣けて、ジンと来る(ラスト、二人に待望の赤ちゃんが誕生するが、希望を持たせる、いい終わり方だった)。
特筆すべきは、芹明香が演じるストリッパー。彼女の存在感は群を抜いた。アル中で、舞台でも失禁してしまう。あっけらかんとして、しかし優しさを持つ。
仲間が火事で命を落とした時、葬式の場で「黒の舟唄」に合わせてしなやかに、ぐにゃぐにゃと踊り始めたシーンは忘れがたい。因みに、私は、この女優さんが大好きである。同い年だが、島根県の出身。進学校中退というのもまたいい。そんなに美形の人ではないが(ごめんなさい)、アンニュイなムードを漂わせ、昭和のイメージを持つ。今でも、彼女の熱烈なファンがいるというのもうなずける。
次に「ペコロスの母に会いに行く」だ。長崎が舞台で、認知症の母を持つハゲ頭の息子と母の交流だが、単に認知症をめぐる映画ではない。人間肯定と言うか人間賛歌と言うか、そういったものがじんわり伝わる映画だった。
原作は漫画。母親の人生が描かれるが、一人の昭和の女性が様々な苦労を乗り越え生きて来たんだ、生きるって大変だが美しいなあ、という感慨を私は抱いた。
若い頃の母親役を演じた原田貴和子が良かった。加瀬亮演じる父ちゃんは弱くても、母ちゃんはどっしり生きていた。日本の女の大半がそうだったのではないか。この映画でも、女性は素晴らしく強い、という森崎東のテーマの一つが見事に貫徹していた。
好きな映画をもう一本! 1987年の「女咲かせます」も良かった。
銀座のデパートの売り上げを集団で盗み出そうとする泥棒たちの映画だ。お金を奪ってエレベーターで逃げようとするが、この映画が真に日本的かつ庶民的なのは、長崎県のある島の閉鎖された炭鉱の男たちが犯行に加わる設定だ。毎日エレベーターを操作しているから、デパートのそれの操作も簡単だと言うのだ。
紅一点の松坂慶子(若く美しい!)が、盗んだお金で、音楽家志望の貧しい青年にチェロを買ってあげる優しさもいいし、彼女が出所した時、ボタ山で、その青年(役所広司)がチェロを弾いて待っているというラストの叙情も好きだ。
負け組、庶民、心意気、そしてふるさと長崎がテーマの、森崎監督の本領発揮の一作。
(by 新村豊三)
11月19日~12月1日、池袋のギャラリー路草です。ぜひ来場ください。
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