今回は、前回お伝えしました最新号のアックス第161号(青林工藝舎)に掲載されている漫画「Prelude Op.28 No.15 雨だれ」の解説をお届けします。
この曲は、ショパンの病気療養のために、恋人ジョルジュ・サンドと一緒に旅行したマジョルカ島で作られました。滞在中、ショパンは持病の肺結核が悪化してしまいます。
サンドが遠くへ買い出しに行き、ショパンが留守番をしていると、天気がだんだん悪くなり、凄まじい嵐になりました。ショパンはサンドが心配でたまらなくなり、体調がさらに悪くなり高熱で意識朦朧となりながらも、ピアノに向かっていました。
そして長い時間をかけてなんとかサンドが帰宅すると、「雨だれ」の楽譜が出来上がっていたそうです。
そんな逸話をイメージしながら、今回のピアノ漫画を描きました。
また、この漫画の話は、似ている形のものが繋がって展開していきます。
例えば…
音符が雨になって…
五線譜が蜘蛛の巣になって…
蜘蛛の巣が傘になって…という感じです。
曲は小雨を思わせる可愛らしいメロディから始まり、途中から不穏で恐ろしい感じの短調になります。
多くのピアニストは、この短調の部分を、黒いどんよりした雨雲が迫ってくる光景を想像しながら弾いているようです。
漫画では、雲の代わりに蜘蛛が女の子の傘にじわじわと大きな巣を作っていきます。無意識にダジャレになってました。うっすらと記されている「sotto voce.」という言葉は音楽用語で「ひそひそと」という意味です。
曲の終盤は再び穏やかになり、もうすぐ雨が上がりそうな明るい兆しを想像させます。漫画の中で、ト音記号がカタツムリになって降ってくる場面は、曲の最後から9小節目の、ゆっくり一音ずつ響かせるメロディの部分をイメージして描きました。私の中で最も気に入っている場面です。
実際にピアノで「雨だれ」を弾きながら漫画の話を考えたら素敵な作品になるかなと思い、描き始めると同時にピアノ練習を始めました。前回お伝えした、弱音で一定のリズムを弾くのが難しいという悩みは、小指で弾いていた音を薬指で弾くことで雨漏りを修繕できた気がします。それから、右手の指が届かず弾けない音を左手で弾いたり省略したりして工夫しました。まだ楽譜を見ながらの辿々しい演奏ですが、動画をお届けします。
ピアノ漫画「Prelude Op.28 No.15 雨だれ」
音楽編集アプリで残響を多めにしてちょっと良い感じに音のお化粧しています。
え?
アンコール?
アンコール?
ではオマケでこちらも聞いてください(^^)
ピアノ漫画『Nocturne Op.9 No.2」
1年前のストリートピアノの演奏動画と比べると、かなりリラックスして弾いてます。良かったら聞き比べてみてください。
ちなみに今回の動画で着ている服は、母の手作りです。数年前、誰かから貰ったらしき不思議な柄の生地で縫ってくれたのですが、全く着る機会がなく、今回この撮影で初めて着ました。
子供の頃、ピアノ発表会にはいつも母が縫ってくれた服を着て出ていました。大人になっても似たようなことをしていて面白いなぁと思います。
ピアノ漫画「Prelude Op.28 No.15 雨だれ」が載っている アックス第161号(青林工藝舎) 森口裕二画集「楽園」発売記念特集、どうぞよろしくお願いします。
(津川聡子 作)
*編集後記* by ホテル暴風雨オーナー雨こと 斎藤雨梟
アンコール!
アンコール!
というわけで、津川聡子作「やっとこ!サトコ なう」「第167話 漫画「雨だれ」ネタバレ解説&ピアノ発表会」いかがでしたでしょうか。
音符と雨粒、雲と蜘蛛、うつむく女性、涙、涙、涙。
そしてほんのり明るいト音記号、また雨だれ。
ピアノを聴きながら読むと一瞬の間に見た長い夢のようです。異色の漫画誌「アックス」の中でも異彩を放つ津川聡子さんの新境地、ぜひみなさまもご覧ください!
同じ人が弾いたとしてもピアノの音色に一度として同じものはないと言います。とはいえシロウトにそんなのわからないよ、と思いきや、案外、違いがわかるものですね。その人となりを知る人の演奏ならばなおさらです。愛読者のみなさま、サトコさんの1年間の変化をどう思われたでしょうか?
そしてお母さんの手作りのお洋服、虹の五線譜にも見えて、あたかもピアニストが立ち上がって客席に挨拶することで曲が完成する仕掛けのようです!
「やっとこ! サトコ なう」へのご感想・作者へのメッセージは、こちらからどしどしお待ちしております。次回もどうぞお楽しみに♪