<この投稿は暴風雨サロン参加企画です。ホテル暴風雨の他のお部屋でも「ホテル文学を語る」 に関する投稿が随時アップされていきます。サロン特設ページへ>
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「暴風雨サロン」が「ホテル文学を語る」という面白い主題を出してきた。そこで今回から数回にわたり、「魔談」では「魔のホテル」を多いに語ろうと思う。御存知のとおりこの宿泊者はどのような主題であろうと「魔」の一字をどこかにくっつけて、話題をダークサイドにひっぱりこもうという腹である。
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さて「魔のホテル」と言えばどこか。それはもうオーバールック・ホテルである。
これは長編小説「シャイニング」(スティーブン・キング)に登場するホテルである。単にミステリアスな殺人事件の舞台が古風なホテルだったとか、なにか邪悪なものがホテルに隠れ潜んでいたとか、その程度の悪ホテルではない。このホテルの邪悪さときたらもう、とても一言では語りきれない。存分に真剣に語り始めたら3ヶ月12回ぐらいは熱く語るのではないかと思われ、そんなことを始めたら4回目あたりから読者は飽きが来て徐々に離反し、8回目あたりから誰も読まなくなり、12回目終了時には荒涼たる雪平原にひとり立つような気分で「完」と記すようなハメになるのは必定である。「それも悪くない」などとヘソまがりなことを思ったりもするのだが、そんな結果になったらホテルオーナーから優雅な叱責が自転車に乗ってやってきそうなのでやめておく。核心をぐっと突く「魔のホテル」談を数回でやりたい。
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さて「シャイニング」。スティーブン・キングと言えば、洋画ファンにとっては「ああ、原作がやたらホラー映画になる作家ね」といったイメージだろうと思う。キングの小説が映画になった作品はじつに多い。今回とりあげる「シャイニング」をはじめ、デビュー作「キャリー」(1974)、「スタンド・バイ・ミー」(1986)、「ショーシャンクの空に」(1994)、「グリーンマイル」(1996)などなど、そのフィールドはホラーに限らない。「ホラー映画はちょっと……」という人でも彼の原作による映画を観た人は多いにちがいない。
かく言う筆者も洋画が大好きで、街で「BOOK OFF」を見かけたら即座に入り、「500円洋画コーナー」で好きなDVDを2本買って大喜びで出てくるような男なのだが、正直に評して「キング原作ホラー映画」というのは、失望したり笑ったり唖然とするようなB級C級レベルも結構多い。なので「キング原作の映画」という条件だけでは大して期待しない。
しかし映画「シャイニング」は別格である。じつにすばらしく怖い。ホラー映画の金字塔であると筆者は思っている。なにしろ監督が、あのスタンリー・キューブリックである。しかもキューブリックが「シャイニング」を映画化したことにより、「キング VS キューブリック」という戦いが繰り広げられることになった。つまり原作者と監督がぶつかってしまったのだ。
これはまあ、よくある話かもしれない。しかし「シャイニング」の場合はすごい。なにしろキングもキューブリックも「ハンパネエ濃いおかた」であるだけに、始めたケンカもハンパじゃない。かくして(この大ゲンカのおかげで)オーバールック・ホテルで発生した惨劇を、我々は3回楽しめる(恐怖を味わえる)結果となった。つまり映画「シャイニング」にめっちゃ腹を立てたキングが(文学的才能を総動員して)ありとあらゆるバッシングをキューブリックに繰り返したあげく、なんと自分で監修して作ったテレビドラマ版「シャイニング」というのまであるのだ。時系列に並べるとこうなる。
(1)小説「シャイニング」(スティーブン・キング/1977)
(2)映画「シャイニング」(スタンリー・キューブリック監督/143分/1980)
(3)ドラマ「シャイニング」(スティーブン・キング監修/270分/1997)
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「魔のホテル」ではこれらを原作、映画、ドラマと呼び、それぞれオーバールック・ホテルがどのような「魔」を見せて活躍しているのか、どのような点が違い、したがってキングが怒り爆発となったのか、次回から大いに述べてみたい。
どうぞお楽しみに。
・・・・・・・・・・・・・・・・…( つづく )