「どうも佐野の言う方が正しいよ。同じメンバーでがんばろうぜ」
と、トモアキは言った。
もともとトモアキはチームを強くするために、メンバーチェンジとは別のことを考えていた。
「でも佐野は弱い」
まだ不満そうに言うジュンを冷ややかににらんでアサ子は言った。
「秋までに追い抜いてみせるから」
やれやれ、ひどいチームワークだ。こんな言い争いを続けさせておいてもいいことはない。トモアキは割って入った。
「あのさ、どうせ佐野だけじゃなくて、みんなが強くならなきゃいけないと思うんだ。冷静に考えればと金倶楽部はやっぱり強い。昨日おれたちは別に運が悪くて負けたんじゃない。それは認めなきゃいけないと思う。新庄くんもそう言ってた。今のままじゃ勝てないって。じゃあ、どうすれば半年であいつらに勝てるようになるかなんだけど――」
「将棋強くなるにはがんがん将棋やるしかないだろ」
「もっと効率のいいやり方がないかと思ってさ」
意味ありげに言葉を切ったトモアキに、アサ子がきいた。
「何か考えがあるの?」
「うん。まあね」
トモアキは昨晩から考えていたことを話した。
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カズオはトモアキの電話を受けたあと、しばらく考えてからシュウイチの部屋に行った。シュウイチは一人で盤にコマを並べて将棋の研究をしていた。
「トモアキくんがね、兄さんにコーチをたのんでくれって言うんだ」
「なんで。同好会の人、教えてくれないのか?」
うで組みして盤をにらんだまま、シュウイチはたずねた。
「教えてくれるよ。でも、もっと強い人の方がいいって。同好会は二段と初段の人が一人ずつで、あとはだいたい級の人なんだ。トモアキくんに、兄さん四段だって話したから」
「その子、わかってないんじゃないか? コーチは強けりゃいいってもんじゃないぞ」
「でもぼくも兄さんがいいと思うんだ。だって兄さん教えるのうまいもんね」
――――続く
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