サーラナ王子の悪夢 後編(出典:雑宝蔵経)

帰ってみると、ちょうど国王だった父親が亡くなったところだったので、サーラナは直ちに王位を継ぎ、怨みを晴らすべく軍備を整えてコーサラ国に攻め込みました。

サーラナの軍勢は、初めのうちこそ優勢のように見えましたが、結局散々に打ち破られてしまい、サーラナ自身も、生け捕りにされてコーサラ国王の前に引きずり出されるハメになってしまいました。

コーサラ国王は刀を取ると、その場でサーラナを斬り殺そうとします。
サーラナは自分の行動の愚かさを心から後悔し、師匠のカッチャーナに祈りました。

「ああ、私が間違っていた! せめて死ぬ前にもう一度だけ、師匠にお会いしてお詫びしたい!」

すると、目の前にカッチャーナが出現し、サーラナに言いました。

「こらオマエ、だからワシはいつも言っておったじゃろう? 闘争によって勝利を求めても、それは結局得ることはできないのだ、と。」

サーラナは言いました。

「はい! まったくもって仰る通りです! お願いですから私を助けてください! もう二度と間違いはしませんから!」

それを聞くとカッチャーナはコーサラ国王の部下に頼みました。

「オマエさん、こいつを処刑するのをちょっとの間待ってはくださらんか。ワシから直接王様にこいつの命乞いをしてみるから。」

カッチャーナが王のところへ談判に出かけた後、部下は思いました。

「だりぃなぁ・・・ やっぱ面倒だから、今殺しちゃえ!」

刀が容赦なく振り下ろされ、死んだ!!と思った次の瞬間、サーラナは師匠のカッチャーナの前に立っていることに気づきました。

そうです。かつて師匠に修行の中止を宣言した、その瞬間に戻っていたのです。

師匠のカッチャーナは全身汗びっしょりのサーラナに言いました。

「な? よくわかったじゃろう? いわゆる「闘い」というものには「勝利」というものがないのじゃよ。
程度の多少はあれども、「闘争」の行き着く先は相手の「殺害」じゃ。
ムカつく相手をぶっ殺せば、確かにその瞬間はスッキリしたような気分になるじゃろうが、まさにそこからが地獄なのじゃ。
負ければもちろん最悪じゃが、たとえ勝ったとしても、負かした相手やその家族たちからの復讐に絶えず苦しめられることになる。
そしてその苦しみは家族たちが復讐に成功することによって、今度はそちら側に移動し、雪だるまのようにどんどん膨らみながら永遠に続いていくのじゃ。
オマエ自身も殺されたことによってその苦しみから逃れられるかというと全然そういうことにはならず、地獄とこの世を絶え間なく往復して苦しみ続けることになる。
それではいったい、どうしたらいいのか?
それはな、冷静な気持ちとなって怨みの気持ちを捨て去ることじゃ。
「仕返ししたい!」などという気持ちを一切持たないことじゃ。
こういうとオマエは、「やられっぱなしなんて我慢できません!」などと思うじゃろう。
でもな、オマエを苦しめているのは特定の個人だけではないぞ。
オマエは毒虫に刺されて苦しみ、猛獣に追われて苦しみ、夏の暑さに苦しみ、冬の寒さに苦しみ、飢えや渇きは言うまでもなく、老化や病気、そして死の恐怖に苦しめられている。
オマエは、それら様々な怨敵にまるで仕返しできないくせに、なぜ特定個人にこだわって復讐しようなどと考えたりするのじゃ?」

<サーラナ王子の悪夢 完>


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