別訳【夢中問答集】第三十五問 根源的な智慧と後知恵 3/3話

さて、樹を植える話の続きじゃが、植えてから結構な時間が経ったのに思ったほど枝も伸びなければ実もならなかったとする。

そこで、「ああ、まだ根っこがちゃんと張れていないんだな」と気づいて土を取り換えて水をやり、改めてじっくりと育てたならば時間がかかったとしても根っこはしっかりと地面に根付き、やがて立派な枝が張って実もなることじゃろう。

ところが世の中の大半の人々がすることはその真逆。

一刻も早く枝を伸ばして実をならせようと思ってあれこれと地上に出た部分をいじくりまわすばかりで、根っこがどんどん枯れていっていることに気づきもしない。

修行もそれと同じで、ものごとの「本質」を悟っていたとしても、いざという時になって気の利いたことも言えず、問題解決のための根本的なソリューションが思いつかないというのであれば、世間の評判や見た目などに気を取られがちな自分としっかりと向き合うべきなのじゃ!

昔の人は言ったよ。「真実を悟ることは簡単だが、それを保持し続けることは難しい」、とな。

「保持し続ける」ためには長年月に渡る根気が必要なのじゃ。

才能ある若いもんがすっかり悟ったような気になって、それを保持する努力もせずに目に見えるミラクルパワーばかりを追い求めた挙句に魔道に堕ちてしまうのをしばしば見かけるが、そんなことでは長い時間をかけたところで業が深くなるばかり。

仮に一時的に役に立つように見えることがあったとしても、結局は同じことの繰り返しになってしまうのじゃ。

それは、あたかも根っこのない樹を植えて一生懸命水をやるかのようなもんじゃ。
春先などに一時的に枝が伸びて花が咲くようなことがあったとしても、最後は必ず枯れてしまう。



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