そんな感じで心の定義が何種類もあってややこしいので、まずは大きく「真実の心」と「マボロシの心」に分けて扱う。
世間の人々の思考や判断は、全て「マボロシの心」じゃ。
それは、先ほども言ったように「様々な元素が寄り集まってだけの身体に、たまたま発生した電気信号」であるに過ぎず、実体がない。
「空中の花びら」、「第二の月」とも例えられるものじゃ。
月がいくつもあるわけがないのじゃが、瞼の上から眼球を指で押さえると、ひとつの月が二つに見える。
心もそれと同じで本来ひとつしかないのじゃが、世間の人々は「マボロシの心」を見てしまう。
それと「真実の心」を区別するために、サンスクリットではわざわざ「フリダヤ」という言葉を用意したのじゃ。
樹木が朽ちてもその「心」が滅びないのと同様に、人間の心も不滅であるということじゃな。楞伽経において、「自心」「妙心」という語の下に「※サンスクリットにおけるフリダヤの意」と注釈が書かれておるのはそういう理由からじゃ。
般若心経という超メジャーなお経があるが、タイトルの「般若心経」はサンスクリットの「プラジュニャー・パーラミター・フリダヤ・スートラム」を漢訳したものじゃ。
般若=プラジュニャー・パーラミター、心=フリダヤ、経=スートラムというわけじゃな。
世間の人々が「心」だと考えているものは、川の流れや燃え続ける炎のように一瞬もとどまることなく移りゆく。
そういう「心」は身体同様に発生と消滅を繰り返すわけなので、「身体は限りがあるが、心は不滅」という考えは間違いじゃ。
「聖人と凡人の区別などない」、「肉体と精神は同じものだ」という「一心法界」の観点で見れば、心も身体も等しく不滅だということになる。
大乗仏教では、「心は不滅だが身体は有限」という考え方はしない。
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