龍牙和尚は生まれつきの秀才で全てにおいて飲み込みが早く、翠微和尚のところに来た時には既に頭から爪先まで「禅のかたまり」という状態になっていたといいます。
で、「祖師西来にはどんな意味があるのか?」と尋ねたら禅板を求められたので渡したところ、その禅板で叩かれて「それはいいですが、祖師西来の意味はないですね。」、と。
今度は臨済和尚のところで同じ質問をしたら座布団を求められたので渡したところ、その座布団で叩かれて「それはいいですが、祖師西来の意味はないですね。」、と。
もうおわかりかと思いますが、要するに龍牙和尚は相手が信頼するに足る師匠であるかどうか、この質問で試しているのですね。また、それを通じて「祖師西来の意味」も悟れればラッキーかな、ぐらいの感じでしょうか。熟達した修行者としての手腕を感じるところです。
かつて石頭和尚のところにやってきた修行中の五洩和尚は、いきなり「たったひと言でわかり会えるようならこの寺に留まりますが、そうでなければ即刻失礼いたします!」と宣言し、それでは、と石頭和尚が座布団の上に正座した途端に席をたってしまったとか。
少しはホネがありそうだと感じた石頭和尚が教えを説こうとしても五洩和尚は聞こえないふりをして門のところまで出ていってしまったので、石頭和尚は「おい、オマエ!」と後ろから呼びかけました。
五洩和尚が振り向くと、石頭和尚は言いました。
石:「それだ! それをやってしまうから悟ることができないのだ! これからも決してどこか他所に答えを求めてキョロキョロしてはいけないぞ!!」
これを聞いた五洩和尚は、その場でガツンと悟ってしまったそうです。
また、章敬和尚のところにやってきた修行中の麻谷(まよく)和尚は、部屋に入るなりものも言わずに和尚の前に置かれた座布団のまわりをぐるぐると三回まわり、手にした錫丈をシャン! と打ち振ってすっくと身を起こしました。
それを見た章敬和尚は言いました。「いいねぇ! いいねぇ!」
その後、南泉和尚のところへ行った麻谷和尚が全く同じことをやってみせたところ、それを見た南泉和尚は言いました。「ダメだ! ダメだ!」
麻谷和尚が「章敬和尚は「いい」と仰ってくださったのに、和尚はなんでまた「ダメ」とか言うのですか!?」と抗議したところ、南泉和尚は「章敬和尚は「いい」んだ。オマエが「ダメ」なんだ!」と行ったとか。
※第三十一則「杖を握ってぐるぐる回る」ご参照
昔の若手修行者と師匠たちの必死の格闘ぶりが伝わってくるエピソードの数々ですね。
それに比べて今どきの修行者ときたら、ちょっと強めのツッコミを受けただけでふてくされてしまって、もうそれ以上解決のための工夫をしようともしません。
そんなことでは未来永劫に「人生の一大事」にケリのつく日は来ないわけなので、ここはひとつ、頑張っていただきたいところです。
―――――つづく
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