足利直義:和尚はそうおっしゃいますが、慎重な初心者はなるべく失敗しないように教義理屈をまず学び、自分なりに理解したところに基づいて修行しようとするものです。
そうやって慎重にやっても上手くいかないことがあるというのに、「理屈なんかいいからとにかく修行!」というのは、ちょっと乱暴すぎるんじゃありませんかね?
・・・などという意見があったりしますが、これはどうお考えでしょうか?
夢窓国師:それは例えば、重病になった人が「よし、まずは医学部に入学して医学を極めよう。治療はそれからでよし!」などと言うようなもんじゃ。
で、結局は勉強が終わらないうちに病気が進行して死んでしまったりして。
病気になったらまず医者にかかるじゃろう?
すると医者は症状を見て薬を処方したりお灸の据え方を指示したりするのじゃが、患者は別にその薬が薬理的にどうとかお灸を据える経穴の名称とかを詳しく理解している必要はなく、ただ医者の言うとおりにしておれば、じきに病気は治る。
修行とかもまたこれと同じで、「まず教義理屈を極めてから修行!」などと言っておったら一生修行など始められはせん。
教義理屈は無限にあるが、人間の命は長くても100年足らずだからじゃ。
死んでしまったら、それこそ修行もへったくれもない。
ただもうなすすべもなく、輪廻の渦に巻き込まれていくばかりじゃ。
そういうわけじゃから、禅宗では教義理屈についてあれこれと口酸っぱく指示することはせず、ただひとことだけ本当のことを告げるまで。
だいたいの場合、それは突拍子もない印象を与えるような意味不明なものばかりなのじゃが、それでも修行者が、ぽつりと言われたそのひとことを寝ても覚めても考え続けているならば、遠い過去からの暗闇が一気に消滅する時が、必ずや来ようというものじゃ。
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