足利直義:しかし和尚様、「勉強も座禅もせず、ちょこっとアドバイスを貰っただけで悟っちゃった!」などというようなことがあるのだとしたら、真面目に努力している人のことをバカにして相手にしなくなる人が出てくるという弊害が生じるのではありませんかね?
夢窓国師:仏様の智慧というものには二種類あってな、ひとつめは「根本智」と呼ばれるもので、誰かにも教えることはできないし、教わることもできない根源的な智慧じゃ。
で、本来説明できないハズのそれを他人に説明するために 無理やりひねり出したのが、いわゆる「後知恵(あとぢえ)」じゃ。
従って、仏様をはじめとした歴代の仏教伝承者や我らの師匠たちがあれこれと教えてくれたのは、全てこの「後知恵」に分類できるということになる。
であるからして、過去に書かれたテキストを読んだり先生の授業を受けたりして学んだことは、全て「後知恵」じゃ。
この「後知恵」というのは、先に説明した「根本智」が発現して自分ひとりの中で深く納得することができたものだけが、他者への説明のために発揮すべきものなのであって、それだけ聞いて悟ったような気になるのはとんでもない間違いじゃ。
また、そういう「根本智」の境地は、特定の宗教や学派に固執しているようでは到底たどりつけないところにある。
だから、ワシの先輩は、「仏とか師匠とかが残した教えに対しては、『なんと余計なことをしてくれたものだ!』と怒りをもって接するぐらいでないと、とても修行にはならん」と言ったのじゃ。
また、「ただ根本が大切なのであって、そこさえしっかりしているというのであれば、それ以外の枝葉末節は、まぁ、どうでもいいや」とも言っておったな。
実際に木を植えるにあたっても、 ちゃんと根付かせることさえできれば枝や葉は自然に生えてくるし、花も実もつこうというものじゃ。
だからこそ、植樹してしばらくは、とにかく根がちゃんとしっかりと定着するように気を配るし、ちょこっと生えてきた枝などはむしろ刈り取ってしまうものじゃ。
だからといって、「木を植えるのは根っこを張らせるためだ!」とかいうのは、これはまた極端な考えであり、間違いじゃ。
木の根っこを大切に養うのは、将来枝葉や果実をつけさせたいがためなのじゃ。
たとえ「宇宙の真理」を悟ったとしても、それを使いこなすことができなければ人類のリーダーとなることはできない。
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