さて、究極の真実を求める気持ちがロクにない今どきの連中じゃが、コイツらはただなんとなく日を送ることに対しても何の疑問も持ちはしない。
だから疑団が大きくなることもないし、大疑団が解けたときの猛烈な悟りなどあるハズもない。
公案に対しても他人が壁に掛けた絵を遠くから眺めるような態度で扱って、それが「工夫」だと言い張る始末・・・
中峰和尚が昔からの公案にわざわざコメントを付け足すようなことをしたのは、そんな連中を叱咤激励して疑団を起こさせるためなのじゃ。
趙州和尚は「犬に仏性はあるか?」という問いに対して「無」と答えた。
もし、これを尋ねた僧がこの「無」という言葉から離れたところに趙州和尚が言わんとすることを悟ることができたならば、もはや疑団は起こらないじゃろう。
しかし、それができなかったとなると、「趙州和尚はなぜ『無』などと答えたのだろう?」という疑問が生まれる。
その疑問を粗末にせずに徹底的に追求し続けたとき、遂には必ず大悟するときがくる。
繰り返しになるが今どきの連中は究極の真実を求める気持ちが薄弱で、言外の趣旨を悟れないばかりか疑団すら起こさない。ただもう、のうのうと日々を送るばかりじゃ。
形ばかりとはいえ仏教修行をするだけマシと言えなくもないが、たいした結果は出やせん。
だから中峰和尚は老婆親切の批判覚悟で、「なぜ趙州和尚は『無』なんて言ったのか?」などとコメントをつけたのじゃ。
ワシがこう言うと、「ということは、やはり公案は疑ってかかるべきなのですね?」などと早とちりするヤツが出てくるのじゃが、それでは大慧和尚の「公案は『まるごとそのまま』を検討せよ」という言葉に背いてしまう。
そう言うと今度は「じゃあやっぱりコメントとか付けてはダメなのですね?」などと言うヤツが出てくるが、これもやはり中峰和尚のやり方を理解していないと言わざるを得ない。
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