だから本物の修行者は、一瞬たりとも「今は座禅の時間じゃないから」などと言ってボサっと時間を浪費したりしない。
食事、着替え、お経の研究、お経の音読、トイレに行く、寝る、といったあらゆる行動の際に、また外出して人と会い、挨拶し、諸々の話をする中にあっても常に「工夫」を忘れない人がいたとする。
つまり「万事の中に工夫をする人」じゃ。
こういった人は「日常生活が主で時間を決めて座禅をする人」よりはマシなのじゃが、まだまだ「万事」と「工夫」を区別する気持ちが残っているので、日常生活が多忙を極めると「工夫」がおろそかになる。
これは「究極の真理」は自分の外にあると誤解しているからなのじゃ。
昔の師匠は言ったよ。「山河大地、森羅万象、これら全てが私そのものなのだ」とな。
だから「工夫」を離れた「万事」などあるハズがない。
「工夫」の中に服を着て飯を食い、「工夫」の中に行住坐臥し、「工夫」の中に見聞きして、「工夫」の中に喜怒哀楽する。
これこそが「工夫の中に万事をする人」じゃ。
その境地まで至ることができたなら、もはや「工夫」は「工夫」ではなくなる。
言うなれば「無工夫の工夫」、「無用心の用心」じゃな。
そんな人にとっては覚えるのも忘れるのも「工夫」じゃ。
もはや起きているとか寝ているとかの区別もない。
昔の師匠は言った。「苦しみや楽しみ、うまくいったりいかなかったり。それらの中にこそ真実があるのだ」、と。
「万事の中に道がある」とも。
・・・まぁ、そんなことを取り沙汰しているうちは、まだまだ禅の達人とは言えんのじゃがな。
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