別訳【夢中問答集】第五十七問 万事が修行なら捨てるものは何もない? 1/4話

足利直義:なるほど、つまり和尚は「日常生活の全てが修行だ!」とおっしゃるのですね?

それではお聞きしますが、和尚の属する禅宗はもとより、天台宗ほかの仏教各派においても、「全てを捨て去れ!」と教えますよね。

「日常の全てが悟りにつながる」というのであれば、いったい何を「捨て去る」必要があるのでしょうか? 捨てちゃったら修行にならないじゃないですか!

これはいったい、どういうことなのでしょう!?

夢窓国師:いやいや、もうちょっと物事を柔軟に考えることはできんのかいな・・・

結論から言うと、仏教における「法」と世俗における「法」は、全く同じものじゃ。

だから、日々の暮らしにおける出来事の、全てが修行だということになるのじゃ。

あんなアホみたいなことも、こんなしょうもないことも、とても嬉しいことも、極めてムカツクことも、それらのどれをとっても「修行」でないことは何ひとつとしてない。

だから、ぶっちゃけて言うなら、なにも捨てることなどないんじゃよ。

ただ、世の中はデキの悪い連中が大半を占めているので、そんな連中に向かって「何でもアリだ!」などと言おうものならそれはもう、修行や悟りとはかけ離れた、大変ことになっちまう。

だから昔から高僧たちは、とりあえず、「捨てなさい。とにかく捨てなさい! それもこれも全部捨てなさい!」と説いたのじゃよ。

本当は何も全部捨てることはないし、もっと言えば捨ててよいものなどないのじゃが、家や職場の掃除と同じようなもんで、「選んで捨てよう」などと思ったら時間ばかりかかってしまって、ちっとも片付かないからじゃ。

まず「捨てる」、これがクリーンアップの基本じゃ!


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