足利直義:いやいや、確かに身体は様々な元素が寄り集まってできている化合物なので結合が解かれればなくなってしまいます。そういう意味で「夢マボロシ」だというのは理解できます。
ただ、心は物理的な存在ではありませんから、ある意味「不滅」です。
なのに和尚は、身体も心もカンチガイであって夢マボロシのようなものだとおっしゃる。
正直、もうわけがわかりません……
私が読んだお経には「心はマボロシだ」と書いてあるものもあれば、「心は不滅である」と書かれたものもありました。
いったいどちらが真実なのでしょうか?
夢窓国師:「心」という言葉は同じでも、その定義にはたくさんの種類があるのじゃよ。
例えば朽ち果てた枯れ木の最後まで残った部分を「木心」と呼ぶ。
これをサンスクリットで「フリダヤ」という。「心臓」という意味じゃな。
密教の「肉団心」というのも同じ意味じゃ。宗鏡録(すぎょうろく)という仏教論文集にもそう書かれておる。
生物の持つ「感情」をサンスクリットで「チッタ」という。一般人が「心」だと思っているものはこれのことじゃ。小乗仏教で「心」というのも、この「チッタ」じゃ。
真言宗では「チッタとは菩提心である」と言っておるが、ここでいう「チッタ」は一般人が思っている「心」とはまた別のものじゃ。……ややこしいのう。(笑)
またサンスクリットで「アーラヤ」というのがあるのじゃが、これはいわゆる第八の意識のことで「含蔵識」ともいう。
さらに「マナス」というのがある。いわゆる第七の意識のことなのじゃが、コイツこそが人間に単なる化合物や電気信号を『自我』だと思い込ませている張本人じゃ。
ちなみに第八の意識は愚かさと知性が混然一体となったものなので、マボロシであるとも実在するとも言えないものじゃ。
この第八の意識は、一番深いところにあるものとして「心の王」と呼ばれることもあるのじゃが、さらに第九の意識をおくことがある。
それは「アマラ」というもので、人々の心の根幹のことじゃ。
この部分は他の意識が全て混乱してしまっても乱れることがないため、清浄無垢識とも呼ばれる。
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