足利直義:なるほど…… しかし、もし「心」がそのようなものなら、妄想の産物である「いつわりの心」ではない「真の心」を探し求めるということ自体が間違いということになりませんかね?
夢窓国師:まず、「心」をふたつにわけて考えるのが間違いじゃ。
片方の目玉をまぶたの上から指で押すと、本来ひとつであるハズの月がふたつに見えるようなものじゃ。
目玉を押している人にはハッキリと二つの月が見えているのじゃが、実際には月はひとつしかない。
だからといって、ふたつ目の月は「いつわりの月」だから払いのけろということにはならない。
目玉を押している指をどければ、月はひとつに戻る。
目玉を押したままふたつ目の月を払いのけることなど、永遠に不可能じゃ。
また、むしろふたつ目の月の方が本物だと思い込む人がいたりするが、これもまたとんでもない間違いじゃ。
目玉を押さない人には最初から月はひとつのままじゃ。
そんな人にとって、「ふたつ目の月を払いのけるべきか、そのままにしておくべきか」などという議論はまったく意味を持たない。
つまり、「真の心」と「いつわりの心」を区別して論じようというのは、指で目玉を押すようなものなのじゃ。
☆ ☆ ☆ ☆
★別訳【夢中問答集】(中)新発売!(全3巻を予定)
エピソードごとにフルカラーの挿絵(AIイラスト)が入っています。
上巻:第1問~第23問までを収録。
中巻:第24問~第60問までを収録。
別訳【碧巌録】シリーズ完結!
「宗門第一の書」と称される禅宗の語録・公案集である「碧巌録」の世界を直接体験できるよう平易な現代語を使い大胆に構成を組み替えた初心者必読の超訳版がついに完結!
全100話。公案集はナゾナゾ集ですので、どこから読んでもOKです!
★ペーパーバック版『別訳【碧巌録】(全3巻)』