別訳【夢中問答集】第六十七問 真の心といつわりの心?

足利直義:なるほど…… しかし、もし「心」がそのようなものなら、妄想の産物である「いつわりの心」ではない「真の心」を探し求めるということ自体が間違いということになりませんかね?

夢窓国師:まず、「心」をふたつにわけて考えるのが間違いじゃ。

片方の目玉をまぶたの上から指で押すと、本来ひとつであるハズの月がふたつに見えるようなものじゃ。

目玉を押している人にはハッキリと二つの月が見えているのじゃが、実際には月はひとつしかない。

だからといって、ふたつ目の月は「いつわりの月」だから払いのけろということにはならない。

目玉を押している指をどければ、月はひとつに戻る。

目玉を押したままふたつ目の月を払いのけることなど、永遠に不可能じゃ。

また、むしろふたつ目の月の方が本物だと思い込む人がいたりするが、これもまたとんでもない間違いじゃ。

目玉を押さない人には最初から月はひとつのままじゃ。

そんな人にとって、「ふたつ目の月を払いのけるべきか、そのままにしておくべきか」などという議論はまったく意味を持たない。

つまり、「真の心」と「いつわりの心」を区別して論じようというのは、指で目玉を押すようなものなのじゃ。


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