別訳【夢中問答集】第七十問 心と性の違いとは? 1/2話

足利直義:なるほど、そういうもんなんですかね……

ところで和尚、よく「インドからやってきた達磨大師は、文字・言語を使って教えを示すことがなかった。ただ、人の心を直に指摘して、その性を見て成仏させた」という話がありますよね?

大乗仏教の諸宗派は皆、口をそろえて「オマエの心、それこそが仏だ!」と言います。
なのに「心を見て成仏」と言わずに「性を見て成仏」というのはなぜなんでしょうか?

夢窓国師:かつて今のオマエと全く同じ疑問を持った僧がおったよ。

その僧は忠国師(六十五問に既出)のところへ行って、「心」と「性」の違いについて質問したのじゃ。

それに対する忠国師の答えは、「それは例えば、寒いと水が凍って氷になり、暖かいと氷が融けて水になるようなものだ。迷いがあると性は凍って心になり、悟りを得ると心は融けて性になる。心も性も実は同じものなのだが、迷いがあるかどうかによって変わってくるのだ」というものだったとか。

忠国師はそうおっしゃったが、これもまたひとつの説なのであって、他にも諸説あるのじゃ。
何度も言っておるじゃろう? なにごとも言葉通りに受け取ってはいけない、と。

ひとくちに「性」といっても色んな意味がある。大きく分けると次の三種じゃ。

  1. 不改:「生まれつき持っていて変えることができない」という意味。例えば「胡椒はどうやっても甘くならず、甘草はどうやっても辛くできない」というようなもの。
  2. 差別:「生物と無生物は意識の有無において決定的に異なる」というような意味。
  3. 法性:「万物に等しく備わっている根源的なもの」という意味。

外国や小乗の教えは「法性」に触れることがなく、ただ「不改」「差別」の意味でのみ「性」を扱っておる。

もちろん大乗仏教では「法性」について議論するのじゃが、その意味するところは宗派によって微妙な違いがある。


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