禅宗はまさに「教外別伝」じゃ。
だから禅宗における「見性(けんしょう):性を見る」の意味するところは、その他の宗派とはひと味違う。もちろん諸外国の教えと一緒であるわけがない。
人間の本質というものは、「心」と言い切れるものではないし、「性」と言い切れるものでもないのじゃ。
「人の心を直に指摘して、その性を見て成仏させた(直指人心、見性成仏)」というのは、世間の人たちが「心」だと思っているものは「ふたつ目の月」のようなものだということを理解させるために、敢えて「心を見る」と言わずに「性を見る」と言ったまでのこと。
「性を見る」と言ったからといって実際に肉眼で何かを見るわけではないし、意識を働かせて認識するという類いのものでもない。
「成仏」と言ったって、今、改めて仏になって仏像のような見た目とオーラを獲得するというようなことではないのじゃ。
例えば、「酒を呑み過ぎてわけがわからなくなったヤツが、しばらくして酔いが醒めて正気を取り戻す」というようなものかな。
日頃抱いてきたカンチガイが解けた瞬間、一気に本質に立ち返る。
それを「見性成仏」と名付けたまでのことじゃ。
大慧禅師は言ったよ。
「ものごとのわかっていない師匠たちがやっているのは、『人の心を直に指摘して、その性を見る』のではなく、『人の心を指摘し損なって、その性を解説しようとする』ということだ」、と。
今どきの知識人づらした連中ときたら、「心」とか「性」とかの意味を解説することが「直指」だと思い込んでおる。
修行者の中にもそういった語彙や理論を習得することを「得法」だと考えておるヤツがおる。
そういったのはみな「説性」なのであって、「見性」ではないのじゃ。
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