かつてブッダがウサギとして生まれていた時の話です。
そのウサギには、サルとサイとカワウソの仲間がいました。
4匹はとても仲がよく、夕方になるとそれぞれが手に入れた食べ物を持ち寄って、楽しく語りあって過ごしていました。
ある時、ウサギは言いました。
「皆さん、明日は精進日です。
お互いに明日は身をつつしんで過ごしましょう。
もしも物乞いがやってきたなら、その時に持っているものを全て施すことにしましょう。」
仲間は皆、心から賛成しました。
そして翌日になりました。
カワウソがガンジス河のほとりを歩いていると、漁師が魚をとっているのが目に入りました。
漁師はとった魚を河岸の砂に埋めて隠し、さらに魚をとるために河に入っていきました。
一部始終を見ていたカワウソは、すばやく砂を掘り返すと、大きな声で言いました。
「おーい、この魚の持ち主は誰だい?いるなら返事をしてくれ!」
誰も答えませんでしたので、カワウソは魚を持って帰りました。
サイは、畑の近くを歩いていると、いい匂いがしてくるのに気づきました。
探してみると、誰もいない番人小屋の中に、焼き魚と牛乳が置きっぱなしになっているのを発見しましたので、サイは大きな声で言いました。
「おーい、この魚の持ち主は誰だい?いるなら返事をしてくれ!」
誰も答えませんでしたので、サイは焼き魚と牛乳を持って帰りました。
サルは、マンゴーの木によじ登り、たくさんの実をもいで、持って帰りました。
さて、ウサギはというと、これといって収穫がありませんでした。
4匹が集合したところへ、果たして物乞いがあらわれました。
サル、サイ、カワウソの3匹は、おのおのの収穫物を全てさし出しました。
ウサギは言いました。
「タキギを積み上げて火をつけていただけませんか?」
皆が言われたとおりにタキギで火を起こすやいなや、ウサギは燃え盛る火の中に飛び込みながら言いました。
「よく焼けてから食べてくださいね!」
それを見て感動した神様は、大きな山を一撃で叩き潰すと、流れ出た汁で月の表面にウサギの姿を書きつけたということです。
<月のウサギ 完>