ある日のことです。
拝火教のバラモンが自宅で聖火をともして勤行に励んでいると、向こうの方から物乞いをしながらやってくるブッダが目に入りました。
バラモンは怒鳴りつけました。
「出たな、このスキンヘッドのインチキ野郎!
ここはオマエみたいな汚らしい乞食の来る場所ではないというのがわからんのか!?
あっちへ行け!シッシッ!!」
ブッダは構わずにづかづかとやってくると、バラモンにこう言いました。
「おやおや、こりゃまた、えらく嫌われたもんですなぁ。
あなたは今、「インチキ」とか「汚い」とかおっしゃったと思いますが、それではお尋ねしましょう。
あなたの「インチキで汚らしい」人の定義とはどんなものですか?
また、「インチキで汚らしい」人を「インチキで汚らし」くしているものは、いったい何だとお考えなのでしょう?」
バラモンは言いました。
「うーん・・・
そう言われてみると、うまく説明できないなぁ。
オマエさん、説明できるのかい?」
ブッダは言いました。
「うむ、それではご説明しましょう。
いいですか?
それはつまり、こういうことです。
気が短くて恨みがましく、ヒマさえあればわるだくみをしているような人、それが「インチキで汚らしい」人です。
生き物(人間、動物、昆虫など種別を問わず)を殺して、なんとも思わない人、それが「インチキで汚らしい」人です。
ほかの町や国を武力で制圧しようとする人、それが「インチキで汚らしい」人です。
自分のものではないモノを見ると、ムラムラとかっぱらいたくなって実行に移す人、それが「インチキで汚らしい」人です。
人からモノや金を借りておいて、「返せ」と言われると「いや、オレは借りていない」などと言い張る人、それが「インチキで汚らしい」人です。
わずかの金品目当てに通り魔強盗を働く人、それが「インチキで汚らしい」人です。
自分のため、他人のためのいずれかを問わず、法廷で偽証する人、それが「インチキで汚らしい」人です。
合意のあるなしを問わず、他人の奥さんを寝取る人、それが「インチキで汚らしい」人です。
生活に余裕があるのに、要介護状態の親の面倒をみない人、それが「インチキで汚らしい」人です。
家庭内暴力(肉体的か精神的かを問わず)をふるう人、それが「インチキで汚らしい」人です。
他人に有利なことは一切言わず、不利になることならあることないことしゃべる人、それが「インチキで汚らしい」人です。
悪いことをしておいて、「バレないように」と願う人、それが「インチキで汚らしい」人です。
ご馳走してもらっておきながら、決してお返ししようと思わない人、それが「インチキで汚らしい」人です。
バラモンや乞食をだます人、それが「インチキで汚らしい」人です。
食事時なのに、汚いことばで怒鳴りつけて食事を与えない人、それが「インチキで汚らしい」人です。
自分だけが偉くて、他人はみなアホだと思っている人、それが「インチキで汚らしい」人です。
他人に迷惑をかけ、欲張りで、ケチでウソツキなくせに、人から尊敬されたいと願い、自ら恥じるところのない人、それが「インチキで汚らしい」人です。
覚醒者(ブッダのこと)の悪口をいう人、それが「インチキで汚らしい」人です。
実にしょうもない野郎のくせに、自分は聖人だと言い張って他人からむしりとろうとする人、これはもう最低の「インチキで汚らしい」人です。「ドロボウ」と呼ぶべきです。
人はその生まれた家柄などによってさげすまれるのではありません。
人はその生まれた家柄などによって尊ばれるのでもありません。
人はその行為によって、さげすまれたり尊ばれたりするのです。
あなたはあのマータンガという人の話を聞いたことがないのですか?
マータンガは最下級のカースト出身で、犬を撲殺する仕事に従事していましたが、そのずば抜けた徳行によって、最上級のバラモンや王侯貴族の尊敬を一身に集めました。
逆に、立派なバラモンの家に生まれておきながら、実にくだらない素行が露見して皆にバカにされている人も、しばしばいるようですね。
もう一度言いましょう。
人はその生まれた家柄などによってさげすまれるのではありません。
人はその生まれた家柄などによって尊ばれるのでもありません。
人はその行為によって、さげすまれたり尊ばれたりするのです。」
拝火教徒のバラモンは、それを聞くと言いました。
「・・・いや、恐れ入りました。
よろしければ私を弟子にしてくださいませんか?」
<拝火教徒とブッダ 完>