ゴータマ・ブッダがマガダ国に滞在していた頃、弟子のひとりにゴーディカ(瞿低迦)という男がおりました。
彼はブッダのいるビハール山から離れたイシギリ山の黒曜石の上で修行を続けていたのです。
彼は熱心に修行を続けて遂に究極の悟りに辿りついたのですが、悟ったと思った次の瞬間には、もう退転してしまい、究極の状態を保持することができませんでした。
そして更に熱心に努力したのですが、悟りに達した途端に退転するというのを6回も繰り返してしまい、「7回目は無いぜ!」とばかりにナイフを握りしめました。
それを察知した悪魔パーピーヤス(魔波旬)は、ブッダのところに駆けつけると、こう告げました。
「ブッダ! 大変だ! オマエのあの優秀な弟子のゴーディカが、自殺しようとしている!!
ヤツは修行がうまくいかないので思いつめちまったんだ!
死んじまったら修行もへったくれもありゃしない。
オレはオマエに敵対する者だが、たとえオマエ側の人間であったとしても、優秀な人間が無駄死にするのを見過ごすことはできないよ!
このままムザムザと死なせてしまうのはオマエだってイヤだろう!?
ヤツはオマエの言うことなら聞く。
頼む!ヤツが死のうとするのを止めさせてくれ!」
それを聞いたブッダは言いました。
「下がれ! 悪魔め!
もしゴーディカが死ぬというのなら、それは修行に失敗したからではない。
むしろ、成功したというなによりの証しなのだ!
余計なことを言って邪魔しようとしても、その手には乗らんぞ!」
とても師匠とは思われないブッダのまさかの返答に、パーピーヤスは愕然とし、やむなく引き下がるとゴーディカのところへ向かいました。
ブッダは周囲の弟子たちに、おもむろに告げました。
「おい、オマエたち、あのゴーディカが自殺したらしいぞ。
オレらもちょっくら見に行こうぜ。」
ビビる弟子たちを引き連れてブッダがイシギリ山までやってくると、黒曜石の上に人が倒れているのが目に入りました。
ブッダ:「おい、オマエたち、ゴーディカの死体が見えるか?」
弟子たち:「は、はい・・・ 見えます!」
ブッダ:「じゃあ、ゴーディカの死体の周りになにか煙のようなものがうごめいているのは見えるか?」
弟子たち:「は、はい・・・ 見えます! なんですか? アレ・・・」
ブッダ:「あれはな、パーピーヤスが未練がましくゴーディカを探し求めているんだよ。
でも、ヤツが何をしようとも、もはやゴーディカにつけ入る隙はないというわけだ。」
ブッダたちに気づいたパーピーヤスは、近づいてきてブッダに尋ねました。
「ブッダ・・・ あの優秀だったゴーディカの認識作用はどこへ行っちまったんだ?
さっきからオレは全力で探しているのだが、どうやらもうオレには彼が見つけられないみたいだ。
なぁブッダ、意地悪しないで教えてくれよ・・・
ゴーディカはどこへ行っちまったんだ?」
ブッダは答えました。
「残念だったな。ゴーディカは修行をバッチリ完成して、もうオマエなんかの手の届かないところへ行っちまったよ!」
<ゴーディカ 完>