ある時、ブッダが弟子のアーナンダを連れてカビラ城の城下町を歩いていると、道端に人だかりがしているのが目に入りました。
ブッダ:「おいアーナンダ、なにごとか見てきなさい。」
アーナンダ:「はい、よろこんで!」
戻ってきたアーナンダはブッダに報告しました。
アーナンダ:「いや、驚きました。 あそこの空き地に赤ん坊が捨てられているんですがね、それはもう、チョー可愛いんですよ!
右手の指なんか吸っちゃって、おめめパッチリなんです。
で、まばたきもせずに往来する人々を見つめているんですよ。」
それを聞いたブッダは、つかつかと捨て子のところまで行き、まじまじと見つめると、こうつぶやきました。
ブッダ:「ああ… やはりオマエだったのか。
確かにあの時のオマエの態度は良くなかったのだが、いまだにこんなところで捨て子をやっているとはな…」
するとその時、驚くべきことにその赤ん坊が口を開くと、こう言ったではありませんか!
赤ん坊:「おお、ゴータマじゃないか。久し振り! あの時はすまなかったな。おかげでオレはいまだにこのザマよ…」
ブッダ:「あの時のことはもういいって!」
赤ん坊:「いや、そういうわけにもいかんだろう。
オレはあの時のことを深く反省して、もうこれ以上何も言うまい、何も考えるまい、と心に誓ったんだ。」
ブッダ:「バカ! そんなことをして何になる!?
間違ったことを言わないようにするのと、何も言わないのとは全然違う!
間違ったことを考えないようにするのと、何も考えないのとは全然違う!」
赤ん坊:「いや、そうは言ってもなぁ・・・
何かしようとするから失敗するのだろう?
だから、何もしないでいるのがベスト・ソリューションだと思ったんだけど…」
ブッダ:「だから、失敗しないようにするのと、何もしないのとは全然違うんだって!
なんでベストを尽くそうとしないかなぁ…」
赤ん坊:「いやいや、オレたちはかつて悟ったじゃないか。
『何も得るものはない、生まれることもない、法もない、仏もいない』って。」
ブッダ:「いや、それはオマエの心得違いだ!
得るとか得ないとかを超えたところに法がある!
生まれるとか生まれないとかを超えたところに仏がいる!
オレを見ろ!
現にオレはこの世界でこうやって仏をやっているぞ!」
赤ん坊:「ふっ… さすがだな。
オマエにはかなわないよ。」
そしてブッダが赤ん坊の手を握って引っぱり起こすと、なんと赤ん坊は立ち上がりました。
皆が驚愕して見守る中、ブッダは赤ん坊に命令しました。
「オマエがしてきたことは、決して悪いことばかりではなかったハズだ。
過去の過ちにとらわれるのは、もうやめろ!
さぁ、今こそ四千億年前の誓いを思い出せ!
我らは生きとし生けるもの全てのために生きようと誓ったのではなかったか!」
それを聞くやいなや、赤ん坊は垂直に百m以上飛び上がり、空中でまばゆい閃光を放ちました。
光は世界の隅々まで入り込み、全ての闇を消滅させ、生きとし生けるもの全てがそのおかげをこうむったのです。
―――――つづく