電気ウナギが言っている事は本当なのだろう。
ウソをついたり、騙したりするのは、僕の知っているかぎりは人間だけだからだ。
「よし、分かった。たくさん電気が取れる所を教えてくれれば、おまえを逃がしてやろう」
電気ウナギは目をバチバチと光らせながら僕を見て、言った。
「・・・海だ。海に行けば、電気をたくさん蓄えた、電気クラゲがいる!」
僕らはずっと山で暮らしていたので、見た事がないけど、海の話は聞いた事がある。
この川よりもはるかに多くの水を蓄えていて、とても広くて「水平線」というのが見えると言う。
なるほど、海に行けばたくさん電気が取れるのか。
僕はセラミックナイフで電気ウナギを覆っていた網を切り裂き、電気ウナギを自由にしてあげた。
電気ウナギは後ろを振り返る事なく、急いで川へと戻っていった。
きっと電気ウナギは水がない所では、生きてはいけないのだろう。
朝になり、とどろき山に太陽の光が差し始めた。
僕とレーチェルは山を降り、お母さんが待つ家へと向かった。
山を降り、家の扉を開けると、お母さんが朝ごはんを作って僕らの事を待っていた。
ものすごく怒られるかと思ったけど、お母さんは何も言わなかった。
でもきっと、すごく心配していたに違いなかった。
僕とレーチェルは、とても申し訳ない気持ちで朝ごはんを食べた。
次の日の朝、レーチェルはいつものように村の学校へ行った。
僕は貯めていたお金をテーブルの上に置いて、お母さんに気がつかれないようにして家を出た。
僕は字が書けないので、書き置きができなかったけど、テーブルに置いたお金を見て、お母さんは分かってくれるに違いなかった。
あれだけのお金があれば、お母さんとレーチェルはしばらくは暮らしていける。
今回の旅は、とても危険なので勿論、レーチェルを連れていくわけにはいかない。
僕は倉庫に貯めていた電気の実を荷台に乗せ、馬車を走らせた。
町に行けば、海に住む電気クラゲの事を聞けると思ったんだ。
僕は村人たちに「町に行って電気を売ってくるんだ」と言って村を後にした。
ちなみに、馬車を引いている馬の名前は「ジョー」って言う。
ジョーは僕の小さい頃から、お父さんと一緒に働いていて、とても聞き分けがいい馬だ。
ジョーは電気の実を食べるのが大好きで、僕とレーチェルはジョーの事を「電気馬」と言って、よくからかっていた。
そんな時、ジョーは歯をむき出して鼻をブルルッと鳴らして、少し怒った顔をする。
そして、またムシャムシャと電気の実を食べる。そんな馬なんだ。
電気の実を荷台に乗せて、僕とジョーは町へと向かっていった。
ポケットの中にはただひとつ、お父さんの形見のセラミックナイフが入っていた。
――――続く
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