カエル〜アフリカツメガエルはカエルツボカビ拡散の容疑で濡れ衣を着せられているのか

世界には約6,300種類の両生類が生息している。しかし、国際自然保護連合の報告によると2010年時点でその30%が絶滅の危機に瀕しているらしい。気候変動、環境破壊などが主な原因であるが、感染症もまた大きな要因とされている。カエルツボカビ病である。

カエルツボカビ病はカエルツボカビという真菌性のカビの一種がカエルなどの両生類の皮膚に寄生することで、宿主を死亡させることがある恐ろしい病気である。このカエルツボカビは1999年に初めて論文で記載された新種で、ツボカビ類では唯一脊椎動物に寄生する。

カエルツボカビは遊走子と呼ばれる水中を移動できる胞子がカエルなどの両生類の皮膚に付着し、角質層に侵入した後、遊走子嚢と呼ばれるツボ状の構造物を形成する。つまり水を介して拡散する訳だが、両生類に対して水は危険なので入るなと指導しても、どだい無理な話である。感染の拡大を止める手段は無い。

カエルツボカビ病と思われる両生類の大量死が報告され始めたのが1970年代である。2020年には報告されているだけで約500種の両生類が絶滅、あるいは絶滅に瀕しており、オーストラリアや南北アメリカで深刻である。2006年、日本でもペットショップに流通する両生類からカエルツボカビが検出され、いよいよ日本にも侵入してきたと大きく報道された。

カエルツボカビの拡散経路はアフリカツメガエルが起源であるという説がある。アフリカツメガエルは1960年代以降実験動物として広く飼育され、カエルツボカビに対しては感染するが発症しない。よって、知らない間に世界に広まってしまったのではないかという仮説である。1999年まで存在が確認されていなかったカビについて、当時その検疫を実施することは不可能であり、同窓会における「あの時好きだったのよ」という回顧と同じくらい手遅れである。

両生類の生息数を大きく減らした地域はメキシコから中央アメリカにかけて約230種、ブラジルを含む南アメリカで約200種、そしてオーストラリア周辺で約40種と南北アメリカに集中している。アマゾン川流域ではもともと両生類の種類が多く、未だ新種の発表が絶えない。しかしながら、カエルツボカビ病の蔓延で新種として発表される前に絶滅してしまっている可能性もあり、被害状況の把握ですら困難を極めている。

このような中、国立環境研究所を中心とした調査チームが日本国内のカエルツボカビ分布調査を実施した。その結果、日本国内の野生両生類に既にカエルツボカビが広く分布していることが明らかとなった。つまり日本全国に蔓延してしまっていたのだ。ところが、日本国内では両生類の減少は報告されていない。これはどういったことなのだろうか。

これまでアフリカツメガエルが起源とされてきた証拠として、

  1. 1980年代の古い標本からもカエルツボカビが発見されたこと
  2. 原産地においてカエルツボカビの出現率が変わらないこと
  3. アフリカツメガエルは発症しないこと
  4. アフリカでの他の両生類の減少が確認されていないこと
  5. アフリカで拡大していないこと
  6. 世界へ拡散した行程を説明できること

これらの理由がが挙げられている。

このように、これだけ状況証拠がそろっている中で、アフリカツメガエルが無罪を主張したとしても立証することは困難である。クロコダイル刑事とアリゲーター刑事に囲まれたアフリカツメガエルはヘビににらまれたカエルよろしく、自白してしまうだろう。

ところが、日本から別の証拠があがってきたのである。国立環境研究所の報告によると、日本で発見されたカエルツボカビの遺伝子の種類が40以上に分類することができるが、世界で蔓延しているカエルツボカビの遺伝子は数種類のみだった。つまり種類の多い地域から種類の少ない地域に拡散したと考える方が自然である。さらに、日本のみならずアジア地域でも種類が多いことが分かり、カエルツボカビの起源はアジア地域ではないかという説が浮上したのである。

アフリカツメガエルは水中で生活するので元々濡れているが、だからといって濡れ衣を着せられることを容認してはいない。その後アジア起源説を裏付ける証拠を固めているらしいので。近くアフリカツメガエルは無罪放免となるだろう。

そんな中、今度は爬虫類のヘビにも病気が見つかった。ヘビ真菌症である。

参考リンク:「致死的な『ヘビ真菌症』、北米で感染拡大、日本にも侵入」(ナショナルジオグラフィックジャパン)

カエルツボカビ病と同様に飼育動物内で蔓延していた病気が自然界に拡散してしまったようである。同窓会における回顧と同様、あの時勇気を出しておけば良かったと後悔したところでもう手遅れであり、これ以上広がらないようにするための対策に重点を置かなくてはならない。我々にできることはまず、ペットは責任を持って最期まで飼うことである。

参考資料

(by ぐっちー)

<編集後記>*最後に重要なお知らせがあります!*

※このエッセイ「妄想生き物紀行」は、ポッドキャスト番組「妄想旅ラジオ」の第39回「カエル と関連した内容です。ポッドキャストはインターネットのラジオ番組で、PCでもスマホでも無料でお聴きいただけます。妄想旅ラジオは、ぐっちーさん、ポチ子さん、たまさんの3名のパーソナリティーが毎回のテーマに沿って「生き物」「食べ物」「旅」について話す楽しいラジオ番組です。

ぐっちー作「妄想生き物紀行」第39回「カエル〜アフリカツメガエルはカエルツボカビ拡散の容疑で濡れ衣を着せられているのか」いかがでしたでしょうか。

今回もお読みいただきありがとうございます、編集担当オーナー雨こと斎藤雨梟です。

こんにちは!

私がカエルツボカビ病について初めて聞いたのは、おそらく本文にもあった2006年のことでしょう。若い方はご存知ないかと思いますが「カエルツボカビ病が日本上陸、日本の両生類が全滅するのでは?」というセンセーショナルなニュースとして全国を駆け巡っていました。ほどなく、日本の両生類は耐性を持っていたためアジア由来の菌ではという説が出て、随分後になって「朝鮮半島原産だった」というニュースが出たと記憶しています。まだわかっていないことが多そうですね。両生類ってどうも、他の脊椎動物に比べて種類も少なくてちょっと弱そうな印象を持っていましたが、種の数は6300種。魚類や爬虫類よりはだいぶ少ないけれど哺乳類よりは多いようです。これをどう見るべきなのか?

ちなみに、本文中に参考資料として挙げた論文の著者・麻布大学の宇根有美准教授(獣医病理学)は、「飼っている両生類に異変があれば、すぐに獣医師などに相談してほしい。水の管理が最も重要で、水槽の水を排水溝や野外に流さないでほしい」としているそうです(Wiki情報)。

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