ホタテガイ〜殻付きホタテガイの焼き方指導

正しい殻付きホタテガイの焼き方という動画を見つけた。

まず、ホタテガイは養殖物を使うとある。養殖物とは主に東北や北海道の噴火湾で生産され、水中に吊り下げた状態で育成されたホタテガイのことを言う。一方、養殖物以外では便宜的に地蒔き物と表現するが、主にオホーツク海沿岸で生産される海底にホタテガイの稚貝を蒔いて数年待った後漁獲される物を指す。養殖物を使う理由は砂をかんでいないからである。

続く正しい殻付きホタテガイの焼き方は平らな方を先に焼く。ホタテガイは2枚の貝殻で構成されているが、一方は丸く膨らんでおり、もう一方は平らである。海底に生息しているときはこの膨らんだ方を下にして砂に半分潜って生活している。平らな方を下にして焼いてしまうとホタテガイの美味しいエキスが流れ出してしまうが、先に平らな方を焼くと熱で貝殻と貝柱が離れるため、まずは平らな方の殻を外してから、その後ひっくり返して膨らんだ方を下にして焼くと美味しいエキスが流れ出さない。これが正しい焼き方である。

ところで、ここで言う「正しい焼き方」とは何だろう。正しい食べ方。正しい殻の処分方法。正しい食後の過ごし方。そして正しい生き方などもあるのだろうか。「正しい」とは何だろうか。おそらくここで言う「正しい焼き方」とは「効率的な」あるいは「合理的な」という意味合いで使われていると思われる。指導的立場の人間からの指南、あるいは指示と考えてもいいかもしれない。

私は頭ごなしに押しつけられるのが嫌いだ。自分で試行錯誤した結果、効率的、あるいは合理的な方法にたどり着いたのであればいいのだが、これが正しい方法ですと提示されてしまうと一気に冷めてしまうのである。これらは先人の知恵として無条件に受け入れていれば、その他の場面で試行錯誤の余地が生まれるので、それこそ効率的なのだと思うのだが、心のどこかでモヤモヤとした物が残ってしまう。

「正しい」という言葉の中には「効率的な」あるいは「合理的な」という意味とは別に、「作者の意図を反映した」という意味も含まれると推測する。薬の注意書きに「用法用量を守って正しくお使いください」と記載されているのはこの意味である。製薬会社が試験を重ねて最も効率的に効果を発揮し、法律上も問題ないとされる用法用量である。これを超えて服用しても効果的ではないし、人体に悪影響を及ぼす可能性すらある。そういった正しさについては、私には従う素直な心がまだある。

ところが、今でも納得がいかないのが国語の試験問題である。「作者の意図として正しいものを選べ」という問題はこの世から無くなるべきである。この問題が成立するならば、ハラスメント発言を繰り返す上司の心情をおもんぱかって、受け手の心情は無視されなければならない。「白髪増えた?苦労してるね。」などと言われて、「お前のせいだよ。」と思ってはいけないのである。上司の意図としては交流を持ちたいというただそれだけであり、その発露が容姿への言及なのである。この意図を正しく受け取らなくては不正解となってしまう。ところが、最近ではハラスメントによるトップの辞任が相次いでいる。これまでの学校教育では作者の意図のみが正しいとされてきたが、これからは読者の意図が尊重される事になるだろう。

殻付きホタテガイの焼き方に正しい方法はない。どんな焼き方で焼いてもホタテガイは美味しい。好きに焼いていい。これを読んで自分も焼きたいと思ったら是非、殻付きホタテガイを平らな方から焼いてほしい。そして、素人参加者に対して「これが正しい焼き方だ!」と指導してやってほしい。

(by ぐっちー)

※このエッセイ「妄想生き物紀行」第100回はポッドキャスト番組「妄想旅ラジオ」第100回「ホタテガイ」と関連した内容です。「妄想旅ラジオ」は、ぐっちーさん、ポチ子さん、たまさんの3名のパーソナリティーが毎回のテーマに沿って「生き物」「食べ物」「旅」について話す楽しいラジオ番組(ポッドキャスト)です。そちらもお聴きになると一層お楽しみいただけますのでぜひどうぞ! ポッドキャストはインターネットのラジオ番組で、PCでもスマホでも無料でお聴きいただけます。詳しい聴き方などは「妄想旅ラジオ」のブログを。

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人生に正解なし。最後はいい話でまとめるかと思いきや、結局正しい焼き方指導かい! という安定のぐっちー節で締めくくり。ホタテ食べたくなってきましたね。

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