「妄想旅ラジオ」ポッドキャスター ぐっちーが綴るもう1つのストーリー「妄想生き物紀行 第20回 バーバパパ〜実現可能などこでもドアで世界旅行を妄想する」
今回の妄想生き物紀行のテーマはバーバパパである。妄想旅ラジオでは第20回記念として架空の生き物について語り合った特別エピソードである。
バーバパパはフランスの絵本作家アネット・チゾンとアメリカの絵本作家タラス・テイラー夫妻による絵本に登場するキャラクターである。フランス語の元々の意味はお父さんのヒゲ、そこから転じて綿菓子という意味があるらしい。英語風に言うとビアードパパ。シュークリーム屋さんである。
阪急西宮北口駅構内にあるビアードパパからは甘い香りが漂っており、神戸線から宝塚線への乗り換え客の足を半ば強制的に止める。これは昆虫がフェロモンを出して異性をおびき寄せるのに似ており、焼き鳥屋さんも同じ手法で客寄せを行っている。毎日ヒゲを剃って通勤するパパさんは焼き鳥屋さんの誘惑を振り切ったにもかかわらず、子供たちのためにとシュークリーム屋さんの誘惑に乗ってしまうのである。しかし、ここには大きなハードルがある。店の混み具合によっては電車を1本遅らせなければならない。子供たちへの愛情が試されているのである。
愛情表現の他の手法として絵本の読み聞かせがある。絵本の世界では様々な能力を持つキャラクターが登場するが、バーバパパはどのような形にも変身できる特技を持つ。絵本の中ではバーバパパが火事に遭遇し、変身して中の人を助けるシーンがある。人助けをして人間界に受け入れられるというストーリーであるが、もし、私がこの能力を得たとしてもバーバパパのように有効に使うことができるか疑問である。
架空の世界で利用される能力あるいは装置として最も有用なものはタイムマシンとどこでもドアではないだろうか。タイムマシンは任意の時刻に移動できる装置だが、今のところ物理法則からしても実現は不可能と考えられている。一方どこでもドアは瞬間移動装置と考えると、物理的に可能なのではないかと思っている。
瞬間移動装置が開発された世界では長距離移動の乗り物は敬遠されるだろう。新幹線移動と飛行機移動を比較する時、現在でも4時間の壁という理論が存在する。都市間を移動する際、新幹線と飛行機ではどちらを使うか比べた時、新幹線で4時間以上かかる場所へは飛行機の方が優先するという理論だ。瞬間移動装置といっても本当に瞬間的に移動できるかは疑問であり、おそらく数時間の準備が必要だろうと推測され、その料金もいくらに設定されるか未知数である。2時間20万円くらいなら考えてもいい。
ドラえもんに出てくるどこでもドアは扉を開けた瞬間に別の地点へ移動できる設定であるが、扉の手前と向こうの気圧差を考慮しないと扉が開かない、あるいは閉まらないなどの不具合が生じるはずだ。やはり現実的などこでもドアは物質の転送ではなくデータの転送が最も実現可能な考え方ではないだろうか。
残念ながら初期の瞬間移動装置は可動式ではなく、設置式になると思われる。いずれ技術的な課題を克服して可動式になるかもしれないが、当面は設置式で我慢して欲しい。設置場所は世界の大都市がメインとなり、東京、北京、ニューデリー、ロンドン、ニューヨーク、ロサンゼルスあたりが最初の設置場所となる。東京・ニューヨーク間を12時間かけて移動していたことを考えると、あの時代に戻るのは無理というものである。
さて、実際に瞬間移動装置を利用してみたいと思う。初回の利用であれば少々時間を要するかもしれないが、利用規約を読み、そこにサインをして利用開始である。利用規約は多くの場合と同様、適当に目を通してOKを押す。同意をしたら次は身に着けている金属を外し、衣服を全部脱いで機械の中に入る。機械は大型の精密スキャナとなっており利用者の分子配列まで読み取ることができる。このデータを目的地に転送し、復元して移動完了というわけである。現段階での欠点は手荷物の移動には追加料金がかかるということである。
精密スキャナの中に入ってしばらくすると意識を失い、気がついたら目的地の機械の中にいる。そこから出て別料金で送られてきた衣服や手荷物を身に着けたら瞬間移動完了である。そのままビジネスでも観光でも自由にできる。移動時間を気にせず、週末だけでニューヨーク2泊3日の旅行が可能になるのだ。旅の情緒が失われると嘆く人もいるだろう。先日発表されたJALの音楽機内サービス終了も時代の流れとして受け止めなければならないのだと思うが、もっぱら落語を聞いていた私としては寂しい限りである。
これだけ短時間で移動できて、手頃な値段であれば瞬間移動装置を使わない手はない。移動の時間を節約し、観光の時間が増えることで旅行の機会が増え、世界経済にも大きなプラスとなるだろう。
この瞬間移動装置には2021年の世界でも同じような仕組みの装置がある。FAXである。つまりこの瞬間移動装置はFAXの3次元精細バージョンというわけだ。FAXでは原稿と送られたコピーでは品質に差が出てしまうが、瞬間移動装置ではスキャナの精度が高く、品質劣化が起こらないまでに技術が進歩した。しかし、もうひとつ大きな問題が残っている。原稿がその後どうなってしまうのかである。
(by ぐっちー)
<編集後記>
※このエッセイ「妄想生き物紀行」は、ポッドキャスト番組「妄想旅ラジオ」の第20回「バーバパパ」 と関連した内容です。ポッドキャストはインターネットのラジオ番組で、PCでもスマホでも無料でお聴きいただけます。妄想旅ラジオは、ぐっちーさん、ポチ子さん、たまさんの3名のパーソナリティーが毎回のテーマに沿って「生き物」「食べ物」「旅」について話す楽しいラジオ番組です。リンク先に聴き方も詳しく載っていますので、ぜひ合わせてお楽しみ下さい。
ぐっちー作「妄想生き物紀行」第20回「20回記念特別編:バーバパパ〜実現可能などこでもドアで世界旅行を妄想する」いかがでしたでしょうか。
今回もお読みいただきありがとうございます、編集担当オーナー雨こと斎藤雨梟です。
こんにちは!
タイトルを見て「バーバパパって、あの絵本の? 生き物には違いないけど……」となり、ページを開いたらトップの画像を見て「何??」 となり、頭の中が「?」でいっぱいの方も多かったと思われます。私もです。主役は右側の美女ではなく左側の白ヒゲのおじいさんです。というか真の主役は「バーバパパ」です。
ですが今回のお話の裏の主役はどこでもドア、に隠された「本当に起こる(かもしれない)怖い話」でしたね。つまり「オリジナルはどうなる?」という……
これをポジティブに捉えれば新しい「自己複製」で、こんなことが可能になれば生命、生物界の様相はだいぶ変わってきそうです。
Twitterでぐっちーさんと話そう企画
さて今回もバーバパパについて、どこでもドアについて、ラジオ放送での砂糖菓子・なめくじ・ハエ人間、過去に遡ってぐっちーさんのタイムマシン発見などなど、何でもTwitterでお話したいと思います。参加方法はTwitterに書き込むだけ、なので初めての方も、ラジオお聴きのみなさまも、エッセイを読んでの感想、ぐっちーさんへの質問やツッコミなど、ぜひお気軽に。
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— SAITO Ukyo (@ukyo_an) July 7, 2020
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