わがまま王子とお世話係

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年度の切り替わりで環境に大きな変化があったことも関係していると思うが、この一週間ほどの息子はまさにわがまま王子の様相である。
音楽がリズム、メロディー、コードの3つの要素で成り立っているように、王子の日常は主にイヤイヤ、号泣、抱っこの3つの要素で構成されているようだ。

「おはようー、もう起きる時間だよ」
「イヤだ。。。まだ寝る、もうちょっとだけ寝るっ」

「朝ごはん食べようよ、大好きなぶどうパンあるよ」
「イヤだ、ふわふわのがいい(焼かないという意味)、いらないポイっ」

「そうなんだ、じゃあ父さん食べていい?」
「イヤだー!ダメー!食べるの禁止っ!」

「牛乳飲む?」
「イヤだ、牛乳じゃないリンゴジュース」

「お着替えしよう」
「イヤだ、パジャマがいい、恐竜のパジャマ」

「カステラはごはんの後に食べよう」
「イヤだー!カステラ今がいい、今カステラ!今カステラアー!!」(しばし号泣)

「抱っこ。。。」

世にいうイヤイヤ期のスタート時は自分でできることがまだ少なく、着替えなどは本人の意思を問わずに半ば強制的にすることができたが、最近はひとりでできることが増え、さらに体力もついてきてそうもいかなくなってきた。子どもの行動を変容させるには、まず本人の気持ちを変えなくてはならない。これは大人と同じである。

わがまま王子モードが発動するたびにその都度どうしてそれができないのかを説明し、なるべく納得してもらえるように心がけてはいるが、実はきっと遠くない未来に言われることを覚悟している言葉がある。

「父さんには言われたくない」

全くもってその通りである。受験や進学、就職などという一般的なレールから外れた、というかそもそもレール自体が存在しない道を進んできた自分に、世の中のことをあれこれ言える資格などあるはずがない。なにしろ子どものお手本になるようなものをほとんど持ち合わせていないのだ。

自分が子どもの頃を考えると、どうして学校に行かなくてはならないのかわからなかったし、勉強をする意味もわからなかった。その割にそこそこ普通の成績をキープできてはいたのでそんなに困ることもなかったが、とにかく何か漠然とした疑問をずっと感じながら過ごしていたように思う。
自分は結果的に音楽を仕事にすることになったけれど、音楽の勉強なんてほとんどしたことがなかったし、唯一の教科書はレコードだった。
その中には心ときめくポップスやロックンロールがあり、それがいつ、どんな状況で作られたものなのか、その時の状況を想像することが楽しくてすっかりのめり込んでしまった。
現在のようにwebを検索すればあらゆる音源や映像が手に入る時代ではなかったので、情報が貴重だったことも好奇心に拍車をかけた。子どもの頃からひたすら聴き続けた音楽からもらったものは、その後自分の中にしっかりと定着し、今でも失われることはない。

そんな自分がもし子どもにできることがあるとするならば、なんでも頭ごなしにダメだと言ったり、一方的に善悪を決めてかかるようなことをしないことくらいである。
結果を自分で引き受ける覚悟さえあれば、とにかく自分の好きなこと、夢中になれることはできるわけで、ダメと言われてやらないよりはずっとマシである。

かつて子どもだった自分が感じたような、理解できない様々なルールや禁止事項を設定しておきながら、それはどうしてなのかをしっかり納得する形で説明できる大人がどのくらいいるだろうか。
何かをやらせたり、やらせなかったりすること、多くの場合それは単なる大人の都合であり、子どものものではない。子どもはそのことを敏感に察しているし、物事の本質を見る力は実は大人よりもずっと鋭いのではないかと思う。
「なんで?」と子どもに聞かれた時に、きちんと自分なりの答えを持っている、そんな大人でありたいと思う。

さっきまで涙とよだれまみれになっていたわがまま王子は散々遊んだ末ようやくベッドに入り、手を伸ばして「タッチ」と言うので応えると指をつかんで引き寄せ、なぜか突然手の甲にキスをした。思わず心の声が口から出てしまった。

「謁見かっ!。。。」

いつか国に仕える民の気持ちがわかる、信頼される王子になってもらいたいものである。

(by 黒沢秀樹)

『できれば楽しく育てたい』黒沢秀樹・著 おおくぼひでたか・イラスト

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※編集部より:全部のおたよりを黒沢秀樹さんが読んでいらっしゃいます。連載のご感想、黒沢さんへの応援メッセージなど何でもお寄せください。<コメントフォーム
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