番外編9「子育ておもしろ体験談3」

ようやく日常が戻りつつある雰囲気になってきましたが、まだまだ気を抜けない状況は続きそうです。しばし間が空きましたが、今週は番外編としていただいたメッセージの紹介をしたいと思います。


ある日、中学生のお兄ちゃんと自動販売機へ行ってきた幼児4歳。翌日もジュース買いにいきたい!と頑張ってたので自販機楽しいんだなと思い連れて行きました。
抱っこでボタンを押させ、ガコンとジュースがでてきた!のに幼児はしんとしている。お つりのはこをカタカタ開けながら、お金がでてこないことにとまどう息子。
おかねがふえると思ったのに~!!いやだ~!!増えればよかった~!と大声で叫びながら泣く息子の手をひきながら、笑いがこみあげてきました。


自販機でお金が増えるなんて、夢のような話ですね。そうだったらいいのにと自分も思います。もちろん幼児にはお金がどういうものなのかもわからないし、単純に両替されてお釣りが出てきたら増えたと思うでしょう。
期待していたお釣りが出てこなかったら、とても残念です。泣きたくなる気持ちはよくわかります。

考えてみれば子供にとって自販機でジュースを買ってお釣りが出たら、お金はたしかに増えることがあります。貨幣としての価値は減っていますが、物としての種類や質量は増えているわけです。お金自体は増えるけれど、価値は増えてはいない。大人の社会というのはややこしいものです。

でも、通貨としての価値と物としての価値は子供にとっては違うかもしれません。5円や50円のドーナツみたいな形が大好きな子や、10円玉が大好きな子がいてもいいはずです。
ふとそんなことを考えてしまい、また気になってしまったのでちょっと調べてみました。
例えば自分が10円玉が大好きだった場合、1万円を10円玉で所有する場合は単純計算で 1000枚になり、それは素晴らしい満足感を得ることが出来るでしょう。しかし10円玉1枚の重さは4.5グラム、それが1000枚あると4.5キロということになり、それは生後2ヶ月程度の赤ちゃんの平均体重とほぼ同じ重さということになります。これを通貨として日常的に持ち歩くとなると、いささか不便と言わざるを得ません。

このことは今まで生きてきて全く知らなかったのですが、財務省のHPによれば、貨幣に関して

「あまりに多くの数が使用された場合、保管や計算などに手間を要し、社会通念上、不便となることから、上限を設けています。」

という規定があることを知りました。そんなことを考えたこともなかったので、またしても衝撃を受けました。
ちなみに受け取る側が拒否できる貨幣の使用上限規定は額面価格の20倍まで、つまり20枚で、紙幣に関しては無制限らしいです。
ああ、大人の社会というのは本当にややこしいものです。自販機でお金が増えたらいいのに。(←子供か)


抱っこ紐について書かれていたので、私が大正産まれの祖母から聞いていた話を少し書きます。
祖母は昔なら武家の出身でしたが、お母さんが何も出来ない方だったので丁稚奉公に出されていました。
10歳で働きに出されるって今じゃ考えられませんが8人兄弟の長女だった故に仕方がなかったらしいです。
さて、浴衣や着物に使われる腰紐や帯がおんぶの際に元々使われていたことはご存知かと思います。時代劇等見ていると判りますが両手を使えることに意味があった時期です。なのでベテラン奉公人は腰紐や帯の繊維でその主の金銭事情が判るそうです。(シルクを初めて知った時の衝撃が凄かったらしい)ル-ツを探る事は色んな繋がりが見えるので楽しいですよね。


抱っこ紐のことからこのような実体験に基づくメッセージをいただくことになるとは思っていませんでした。ベテラン奉公人は抱っこ紐の繊維で主の金銭状況が判る、というのはなるほど確かにそうかも知れません。
現在では高価なブランド品などがその役目を果たしているのかも知れませんが、実際のところその本当の価値がどこにあるかは身に付ける人やそれを見る人によって様々で、何を信じて良いのか分からなくなっているような気もします。

昔はおんぶ紐はその家の腰紐や帯、余った素材で仕立てた自家製のものだったらしいので、そんな最も現実的な生活必需品の素材にこそ、その家の状態が反映されるというのは納得です。
そしてどんなものでも扱い方や身に付け方で差が出るというのは事実でしょう。ものの扱い方や所作が美しい人は、やはりそれなりのルーツを持っているのではないかと思います。そんな家に奉公に出ていたおばあさまは、きっとその辺りにはしっかりとした物差しを持っていたのではないでしょうか。


娘が3歳頃の話。とくかくチョロチョロと動き回る子でした。スーパー等では1秒目を離しただけで消えてしまいます。毎度毎度探し回るのが大変でいい加減疲れ切ってました。
ある日親切な方に迷子センターへ連れて行ってもらった娘は、ママとはぐれてもここで呼び出せばいいんだと気付き、味をしめたのか平気ではぐれては迷子センターに自ら出向 き、母を呼び出すということを繰り返すようになりました。母は本当に恥ずかしかったです。子供用のハーネスの購入を本気で考えた出来事でした。


子供用のハーネス、わかります。自分も今まさにそういう状況になりつつあります。というか、子供に心理的なハーネスを付けられているような状況とも言えるでしょう。
わざわざはぐれて迷子センターに自ら出向き、母を呼び出すというのはなかなか高度な遊びを兼ねた愛情確認のテクニックではないかと思います。毎回スーパーに行く度にそれをされていたら買い物どころでありませんよね。本当にお疲れさまでした。

最近の育児書などを読むと、子供は物心がつき始める1歳半から3歳くらいまでの時期に、ようやく養育者が自分とは別の人間であることを認識しはじめ、いわゆる「対人関係」を構築するための冒険をはじめるそうです。
自分には安全なベースキャンプのようなものが存在することを認識すると、そこから離れたり戻ったりすることを繰り返して、初めて自分以外の人間との適切な関係を作ってい く。その経験が大人になる過程でとても重要な役割を果たすらしいです。

子供の冒険に付き合うのは大変ですが、この面倒な冒険をすっぽかすと、その先に盗んだバイクで走りだすことになったり、さらに大人になってからいろんな意味でわざわざ迷子になったりする可能性があるらしいので、スーパーで冒険してくれてむしろ良かったのかも知れませんね。
きっと子供だった自分たちも同じようなことをしたんだと思います。 子供は可能性の塊です。失敗を恐れずどんどん勇気を持って冒険し、自分の力で歩いて行けるようになってくれたらと思います。

他にも紹介したいエピソードがたくさんありますが、自分がつい脱線してしまうので今回はこの辺で次週に続けたいと思います。

(by 黒沢秀樹)


※編集部より:ご紹介できるのは一部ですが、全部のお便りを黒沢秀樹さんが読んでいらっしゃいます。連載のご感想、黒沢さんへの応援メッセージなど何でもお寄せください。<コメントフォーム

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