シャバダバダ〜 と、パルスオキシメーターとネイル

私の思う秋らしい色合いを猫とパルスオキシメーターで表現

みなさまこんにちは。ホテル暴風雨・雨オーナーこと斎藤雨梟です。

娑婆に出てきてしばらく経ち、まだ風呂に入れない(シャワーは可)ことがじわじわ効いてくる寒さとなりました。が、おかげさまで着々と回復しています。さて先日、入院中はジェルネイルを外していたことを書きましたが、ジェルネイルのみならず補強のための何もせず自爪そのままで一週間過ごしました。

今回はその理由を書きたいと思います。

入院中にジェルネイル・マニキュアを外すべき理由

理由その1: パルスオキシメーターを装着するため
理由その2: 患者の爪の色が、医師が健康状態を知る手がかりになるので

理由その2は読んで字の如し、なるほどそうだよねー、としか言いようがありませんが、その1の「パルスオキシメーター」とは何か?ということに、私も入院中から興味津々、退院後も興味が醒めず調べてみたので今日はそのことを書きたいと思います。

パルスオキシメーターとは

パルスオキシメーターとは、動脈の血中酸素濃度と脈拍を計る機器で、見た目はページトップの眼光鋭い猫が指にはめているようなモノです(注:実際は10個もつけたりはせず、どこか1本の指につけます)。パッと見たところ、ちょっと大型の洗濯バサミみたいです。そういう機器で酸素を計ったことはあったっけなあ〜と、ぼんやり記憶はしていたのですが、皮膚から出てくる酸素の量でも計るのか?と勘違いしていました。

ですが、パルスオキシメーターとは皮膚から出てきた酸素を計るのではなく、血中の赤血球の中に、「酸素と結びついたヘモグロビン」と「酸素と結びついていないヘモグロビン」がどれくらいの比率で存在するかを、指に光を透過させて計る機器でした。

冒頭の絵ではあんまりなので、実物にもう少し近い絵をご用意しました。これです。

こちらも多分に私の記憶スケッチ的な絵でしかないことをお断りしておきます。

横からの断面はこんな風になっていて、指の爪に当たる部分に赤く発光するランプが付いています。

これでどうやって血中酸素を計るのでしょう?

ヘモグロビンの役割

その前に血液の赤血球の中にある「ヘモグロビン」とは何だったか?高校の生物を習った人にはお馴染み……のはずなのですが、かく言う私も(習ったのに)忘れていたので復習です。

ヘモグロビンとは「血の色」そのもの、つまり血液中の赤い色素です。酸素の濃度が高いところでは酸素と結びつき(この時、「酸化ヘモグロビン」と呼ばれ鮮やかな赤色になる)、酸素の濃度が低いところでは酸素を手放し(この時は「還元ヘモグロビン」と呼ばれ暗赤色に。黒っぽい、いわゆる静脈血の色です)、この性質によって体じゅうに酸素を運ぶ役割をしています。

物質とは、どんな波長の光を透過するか、吸収するか、反射するか、それぞれ固有の性質を持っています。酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンでは、この光の透過に関する性質が違います。

パルスオキシメーターの原理を簡単に

さて、パルスオキシメーターの発光部は、見たところ「赤いランプ」なのですが、実は赤い光と赤外線を交互に出すLEDなのだそうです。指先を透過した赤色光と赤外線とを指の腹側のセンサーで受光し、それぞれどれくらい透過したのかを調べます。

赤色光の透過率は酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンでは大きく異なります(酸化ヘモグロビン:あまり透過しない 還元ヘモグロビン:透過する)

一方、赤外線のある波長域に関しては、両者の透過率はほとんど変わりません。

よって、赤色光と赤外線それぞれの透過率を調べることで、今指先を流れている血液の中に、「酸化ヘモグロビン」と「還元ヘモグロビン」がどれくらいの比率で存在しているかリアルタイムでわかるのだそうです。鶴と亀が合わせて3匹、足の数は合わせて8本、さて亀は何匹?という「つるかめ算」の原理ですね。こうして、血中酸素濃度は十分か、つまり、血液がちゃんと末端まで酸素を運んでいるのか?を知ることができるというわけです。

疑問その1 どうやって動脈の血だけ計れる?

この説明を聞くと、なるほど、と思いつつどこかモヤモヤしませんか。私はしました。私の感じたモヤモヤとは……

Q:ざっくりと指を挟んで光を透過させたら、指には動脈もあれば静脈もあるし、皮膚や筋肉や爪もあります。皮膚のメラニン色素にも赤い色のものがあると聞いたことがあるし、そういうものも赤色光と赤外線の透過に関わるはずです。どうやって動脈の血だけ計れるのでしょう?

この疑問に対して、(あくまでも私が調べて理解した範囲で)答えが見つかりました。

A:パルスオキシメーターは1秒間に40回以上赤色光と赤外線を交互に発光させて透過光を計測するので、透過光の値が短いサイクルで上下する「変動」も計れます。動脈は脈動していて大きく厚さが変動しますが、皮膚・静脈などそれ以外の組織は短い時間の中ではほとんど厚さが変動しないので、「変動の大きい部分」だけを信号として分離することができるらしいです。

なるほど。でも、厚さが一定の部分に含まれるモノは測定値に影響しないようにできているとすれば、また別の疑問が出てきます。

疑問その2 爪の厚さは短時間で変動しないのだから、そこにジェルやマニキュアなど何を塗っていようと測定値には影響しないのでは?

パルスオキシメーターは主に赤い色素の透過光をセンサーするものである以上、赤っぽいマニキュアを塗っていたら誤作動を誘うだろうし、肉眼で見て透明なマニキュアであっても赤外線の透過率に影響を与えるかもしれない。と、一度は納得しかけたのですが、よく考えると次の疑問が出てきました。

Q:短い周期で変動する数値だけを分離して計測するならば、厚さが一定のものを爪に塗っていても正しく計測できるのでは?

これに関しても、調べてみると答えらしきものが見つかりました。

A:パルスオキシメーターは「赤色光透過率**%」「赤外線透過率**%」という生のデータを出すだけではなく、あらかじめそれらの生のデータと実験データとを照らし合わせて相関を調べて作った換算式に基づく数値を出してくれるもののようです。つまり、実際にパルスオキシメーターで計測した被験者から採血し、血液から直接計測した血中酸素濃度と、パルスオキシメーターの計測した数値とがどのように対応するか、というデータに基づいて血中酸素濃度を出してくれるのです。
被験者は偏りなく選ばれているでしょうが、全員「爪には何もつけずに」測定しているはずです。ですので、爪に何かつけて計測した場合、何もつけていない前提での換算式に当てはめられてしまい、誤差が生じるものと考えられます。

以上、

日本呼吸器学会・パルスオキシメータ冊子

コニカミノルタ・パルスオキシメーター知恵袋

Wikipedia「パルスオキシメーター」

などを参考にして理解し得たことを書きましたが、「なぜマニキュア・ジェルがいけないのか」に関してはそのものズバリの納得できる答は明記されていなかったため私の推測です。

パルスオキシメーターは医療機器

というわけで、入院・手術する際はジェルやマニキュアは透明なものであっても外した方が良いことの理由に納得できたというお話でした。

「1本の指につけるのだから、1本だけジェル・マニキュアを外しておけば十分なのでは?」という疑問も生じますが、手術など長時間にわたってパルスオキシメーターを装着する必要がある場合、同じ指を使い続けると低温やけどのリスクがあるため、一定期間置きに付けかえるもののようです。よって、1本だけ外すのでは不十分です。

「ジェル・マニキュアをしていない指が2本あれば交互につけられるのでは!?」は理屈としてはありな気がしますがどうなのでしょう?絶対何が何でも全部の指のジェルを取るのは困るという方は、聞いてみる価値はあるかもしれません。

また、低温やけどを防ぐためには2時間おきくらいに付けかえるらしいので、日帰りの検査などで装着時間が短い場合は1本だけでいいのかもしれません。もちろんこれらはすべて医行為をする側の見解によるので、あらかじめ問い合わせないとわからないことです。

ところで、パルスオキシメーターは医療機器ですが、厚生労働省の見解によると、「医行為ではないと考えられる」行為の中に、「新生児以外の者であって入院治療の必要がないものに対して、動脈血酸素飽和度 を測定するため、パルスオキシメータを装着すること」が挙げられています。(医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の 解釈について(通知)より(PDFファイル))

でも、装着だけしても何もわかりません。計測した数値を解釈するのは「医行為」であって、医師の指導のもとに使用しないといけない機器のようです。法律で決まっているからという以前に、素人が測定値を見ても役立てるのが難しいでしょう。コニカミノルタのサイトにも、「家庭用に購入する前に測定値を判断していただける医療専門家に相談してください」と書いてあります。

その一方、誰もが普通に購入できるものでもあるようで、医療機器として微妙な立ち位置のアイテムなのでしょうか。

ページトップの絵に関して、「実際のパルスオキシメーターは10個もつけません。こんなにカラフルでもありません」と注意書きをしようと思ったのですが、調べてみると

こんなカラフルなのが実際にあるし

こんな可愛らしいデザインのものもあるし

Amazonで普通に買えてしまうし、どういうことなのかよくわかりません。

「医療用」と銘打った製品もあるのですが、そもそも医療用でないパルスオキシメーターはないんじゃなかったのかと疑問です。

調べてスッキリしたそばから別の疑問が広がってしまいましたが、それはまた別のお話。

ではみなさま、健康と爪を大切に!


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