ギャップ萌え?「一見堅苦しい印象」界のスターへの道

鍵盤猫 illustration by Ukyo SAITO ©斎藤雨梟

新年といえば、BGMで人気なのは宮城道雄「春の海」ヨハン・シュトラウス「美しく青きドナウ」ヴィヴァルディ「四季」より「春」などでしょうか。クリスマス時期は新旧入り乱れていますが、お正月は古典好みな傾向のようです。

私はわりあいとクラシック音楽が好きなので、時々演奏会に足を運びますが、熱烈なマニア向けではない一般向けコンサートでは、こういう切り口のものが大変多いです。

「クラシック音楽というと、どうしても『堅苦しい』『難しい』のではないかと思われがちですが、そんなことはありません。クラシック音楽の楽しみをご紹介します」……云々。

皆様もどこかで一度は目に、あるいは耳にしたフレーズではないでしょうか。

新しい音楽に人気が移り、クラシックの演奏会チケットや音楽CDはあまり売れず苦戦している、などと聞いた時代もありますが、現状、どうなのでしょう。

むしろ、みんながこぞって聞くような「新しい音楽」というのも少なくなって音楽の趣味が多様になり、ジャンルも細分化し、ネットの音楽配信などの影響で、どのジャンルも一部のスター以外まあまあ苦労しているのでは? という印象があります(※イメージです)

そしてむしろ、クラシック音楽は大ジャンルです。何しろ、「堅苦しそうでよくわからないけど」という枕詞はつくものの、誰もがその存在を知っているのです。

これば例えば「ハウスミュージック」だったらどうでしょう。「ものすごく先鋭的でアーティスティックな人にしかわからないというイメージがあると思いますが、そんなことはないんですよ」などと言ってもあまり説得力を感じません。ハウスミュージックは人気のある大きなジャンルだからこそ例に挙げたわけですが、それでも、ハウスミュージックを聞いたことがない人にアンケートでも取ったら、「ハウス?家で聴く音楽?」とか「テクノとの違いがわからない」とか、イメージ以前にそもそもジャンル自体を知らない・よくわからない人が結構な比率を占めるのではないでしょうか。それくらい音楽の趣味は細分化していると思われるのに、翻ってクラシックです。音楽をまるで聴かない人だってその言葉は知っていて、正確かはともかく何かしらのイメージは持っているでしょうからすごい。

みんなが(「堅苦しそう」「難しそう」というイメージではあるが)よく知っている。そして聴いてみればそんなに堅苦しくも難しくもないから(これは聴く人に大きく依存し、退屈で寝ちゃうというパターンもよく見られるとはいえ)、「ギャップ萌え」的にファンを増やす入り口は常に用意されている。

当たり前なことしか書いていないようでソワソワしてきましたが、よく考えるとこれは、すごいシステムではないでしょうか。(そういう気がしてくるまでぜひ無理やり考えてください)

というのも、この生存戦略からは学ぶものが多い。

クラシック音楽の長い歴史や、義務教育における音楽教育などの占めた役割も大きいので、この認知度の高さまでをすぐに真似できるものではありません。

でも、無理やり現代性をパッケージに詰め込んで流行の音楽と同じ土俵に乗るのではなく、「堅苦しく難しそうと言われてます、どうもクラシックで〜す!」というサブリミナル的なアプローチを取る手法には学べる(ような気がする)。

食品の流通に乗せて「おまけ付きのお菓子」のていでおもちゃを売るとか、書籍の流通に乗せて「おまけ付きの本」として雑貨を売るビジネスにも似ている気がしてくるし、水道の修理屋さんが冷蔵庫に貼るマグネットを配るとか、葬儀屋さんが地道に電話番号を記したティッシュをポスティングし続けるとか……的確な例を探すうちにどんどん違ってきましたが、本物の王者といえども王道を歩めばいいってもんじゃないんだ!とクラシック音楽から教わった気がした新年でした。

そこまで言うからには学んだ手法を具体的に取り入れようという目算があるんだな? と聞かれると全然ないので困り、

「ホテル暴風雨」というとアレだ、暴風雨の時にわざわざ旅行に行こうという変わった趣味の方々が見るという変態サイトでしょう? というイメージの定着に努めて、でも読んでみたらアラやだ普通に面白いじゃん! というギャップ萌えを狙う。

などと考えてみたけれどこれまた全然現実味がなくてこれまた困ってしまったことでした。そんなイメージつける方が難しい。

ちなみにページトップの画像は、バロック音楽をイメージして描いた絵です。バロックはクラシックの中でも古い17世紀〜18世紀初頭くらいの音楽(代表的作曲家はバッハ)です。その時代に虹色の鍵盤楽器があったとか猫が服を着て演奏したという事実はまったくなく、この絵は、バロック・ヴァイオリン奏者の坂口ひろみさん(ウェブサイトが見つからず)、チェンバロ奏者の鴨川華子さん(猫大好き)の演奏会のチラシのために描きました。バロック音楽など古楽の美しい響きに心惹かれる人は多く、若く才能ある演奏家も続々登場しているようで、堅苦しくて難しいと言われがちな中、本当に素晴らしいです!今年はバロック音楽の演奏会に足を運ぶ年とするのはいかがでしょうか?

なんとかオチがついたところで、今回はこれにて。

(クラシック音楽とひとくちに言ってもその中でジャンルは細分化されていて、どこまでがクラシックかという定義にも諸説あり、「ハウスとテクノの違い以上に幅があるぞ」「一定したイメージを持たれてなんかいない」など、厳密なことを言い出したらきりがないですがそのへんはいわゆる「※イメージです」ということでよろしくお願いします)


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