【 魔のホテル5 】「シャイニング」で激突!スタンリー・キューブリックvsスティーブン・キング

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…………………………………Illustration:Kaoru Nakarai


筆者は【 魔のホテル1 】で「シャイニングは3回楽しめる」と書いている。原作、映画、ドラマの3回である。ところが「こんなものもありますよ」と知らせてくれた友人がいる。なんと映画「シャイニング」を扱ったドキュメンタリー映画があるというのだ。
「恐るべきものです。未見でしたら是非」と彼は言う。
「……驚いたな。こりゃ〈シャイニングは4回楽しめる〉に訂正か」と思いつつ調べてみた。DVD映画の特典にありがちな「監督&関係者が語る……」とかそういうのではなく、キューブリック(1928 – 1999)の死後14年が経過した2013年に制作されたドキュメンタリー映画らしい。「シャイニング」上映(1980)からは33年も経過している。
「なぜわざわざそんなものを?」と思ってしまう。改めて映画「シャイニング」人気の凄みを感じる話ではある。

「観たい!」と即座に思ったが「いやいやこういうものは余り期待しない方が……」とも思った。キューブリックの熱烈すぎる信奉者は多い。「我こそは」というキューブリック・フリークたちが寄ってたかって「シャイニング」をつつき回し、ああだこうだと得意顔で持論を披露するようなものが想像された。そんなものが本当に面白いだろうか。途中でウンザリしてコントローラーの「停止」ボタンを押すようなことにならないだろうか。
疑いは募ったが、知らせてくれた友人が「恐るべきものです」と称賛している。それにタイトル「ROOM237」がなんとも心憎い。「やってくれる」感がある。期待しないように警戒しつつ観ることにした。

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前回の【 魔のホテル4 】ビジュアルの右肩に「ROOM237」というタイトルがある。お気づきだっただろうか。これを見て「?」と思われたかたもいるに違いない。じつはこれがドキュメンタリー映画のタイトルなのだ。オーバールックホテルの「237号室」という意味である。
映画「シャイニング」でじつに印象的なシーンがある。ジャック・トランスの息子ダニーは超能力を持っている。映画「シャイニング」と言えば、このかわいらしい少年を真っ先に思い浮かべる人も多いだろう。ダニーの超能力をいち早く見抜き、それを「シャイニング」と呼び、なんとも複雑な表情でダニーを見つめるハロラン。オーバールックホテルのコックである。ハロランもまたシャイニングを持っているからこそ、オーバールックホテルの病み具合をよく知っている。この病んだホテルで一冬を暮らすジャック・トランス一家を密かに案じ、ダニーにさりげなく忠告しようとする。ところがダニーはいかにも子供らしい性急さで、ハロランにズバリと聞く。
「237号室にはなにがあるの?」
きっとハロランは電光に打たれたような衝撃を感じたことだろう。魔のホテルにおける魔の部屋。それが237号室である。

ところがじつに奇妙なことに、キングの原作では魔の部屋は「217号室」なのだ。なんでそれをわざわざ「237号室」に変えたのか。撮影で使ったホテルに217号室があり、「後でクレームが来ると困るので」とキューブリックは説明したらしい。しかし実際にはそのホテルに217号室はなかった。ではなぜ?……その理由はいまだによくわかっていない。キューブリック亡き後、これは永遠の謎になってしまうのかもしれない。

このような不可解な謎が映画「シャイニング」にはじつに多い。「たまたま数字を変えたかっただけじゃないの?」とか「ちょっといじってみたかっただけじゃないの?」という意見もあるだろう。しかし「キューブリックにかぎりそんなことは絶対にないっ!」とキューブリック・フリークは主張する。
病的な完璧主義者。キューブリックはそういう監督らしい。彼は「シャイニング」のあるシーンで132回も撮影のやり直しをした。132回!……信じられますか?……ゆっくりと「1回、2回」とつぶやくだけでも2分以上かかってしまう数字である。確かに周囲のまともな人間から見れば、ウンザリを通り越して「病的」「異常」という言葉が出て来るだろう。この数字はギネス登録されているそうである。「それほど重要なシーンなのか」と普通は思う。じつはそうではない。しかもカットされてしまったエンディングの1シーンだという。さらにそのフィルムは破棄されてしまったという。「132回もやり直しをした」という事実と「そのシーンはもう見ることができない」というミステリアスな結果だけが残っている。どうもキューブリックにまつわるエピソードにはそういうのが多い。

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さて「ROOM237」。「我こそは」という選り抜きのキューブリック・フリークが5人集合して作っている。彼らに言わせれば「シャイニング」には「隠された意図」やら「密かに込められたメッセージ」やらがたくさんあるということらしい。
「お疑いですか?……じゃあ、私が発見したこの事実、あなたはどう解釈しますか?」というのがこのドキュメンタリー映画である。
結論から言えば、「途中で〈停止〉ボタンを押す」ことはなかった。夜の11時から見始め、バーボンをやりつつという不真面目きわまる映画鑑賞態度だったが、ホロ酔いにもかかわらず最後まで心地よい緊張感をもって観た。口に運ぼうとしたグラスはたびたび口の前で停止し、その姿勢のまま画面に見入るという面白さだった。
ここでは詳しいことは述べない(キング激怒のエピソードで、次回で少し述べるつもり)が、興味のあるかたは「ROOM237」で検索していただきたい。まあ感心するほどに「これでもかこれでもか」解釈が出て来る。「無理な解釈かどうか」という印象は人によって違うだろう。しかし「確かにこれはなにか意味のある仕掛けに違いない」というのは随所にあった。おそるべしスタンリー・キューブリック。まさに「魔の監督」。

というわけで、今回は最後にお詫びと訂正。
「シャイニングは4回楽しめる」でした。お詫びして訂正いたします。

・・・・・・・・・・・・・・・・…( つづく )

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