【 魔の帰巣人形 】(13)

「つまり老人がベッドに連れこんでいたのは、最初に見た人形以外の3体だった?」
TTは無言でうなずいた。「ああ」とか「うん」とか、そうした言葉を全く発しなかった。
些細なことのようだが、微妙な違和感があった。「おやっ?」と不審に思い、それとなく彼の表情を観察した。

話が進むにつれて、彼の仕草は微妙に変化していた。どことなく緊張感が滲み出ているような気配があった。
「よほど思い出したくないのだろう」と同情はするものの、こちらとしてはここまで聞いたからには、最後の最後まで聞かずにはおれない。すぐにでも聞いてみたい質問もいくつかあったが、ぐっと我慢して話の続きを待った。

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「はずかしいことだが……」と彼は言った。その時の彼は、激しい怒りに翻弄されていた。
「怒りという感情は、一時的にせよ恐怖を押さえこむ力がある」
「まさに〈窮鼠(きゅうそ)猫をかむ〉だね」

暗闇の中に人形がいた。先程と変わらず椅子に座っていた。一瞬たじろいだが、「ジッツオがなぜここにない」という怒りの方が優っていた。「捜索の邪魔をするな」と言わんばかりの勢いで、その人形の周囲もバシャバシャと写真を撮った。フラッシュが発光するたびに人形の白い顔がパッ、パッと浮かび上がった。
「本当にもう、ホラー映画そのものだったね」

ひととおりの撮影が済むと、TTは寝室に戻った。婦人と老人を無視して、その部屋中を撮影するつもりだった。ところが部屋に一歩入った彼は立ちすくんだ。ふたりの姿はなかった。
「そんなバカな!」
すぐそこにあるドアから彼も外に飛び出そうとして、衝撃を受けた。ドアには内側から鍵がかかっていた。
「まだ他に部屋があるというのか!」
トイレだろうと見当をつけていたドアを開けた。果たしてそのドアはトイレではなかった。そこにあったのは意外にも下に向かう階段だった。
「なんと地下室があるというのか!」
地下の奥から小さな光がゆらゆらと漏れている。「もしかして」と寝室を見回すと、確かに燭台に2本あったはずのロウソクが1本になっていた。思わず地下に向って「おおい」と声をかけた。婦人の声で応答があった。

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状況が理解できたので、寝室を調べることにした。1本とはいえ、この部屋にはロウソクの明かりがある。なんとも心細い光だったが、それでも隣室の闇よりはマシというものだ。
誰もいないのを幸い、彼はバシャバシャと写真をとりながら部屋の中のあちこちを調べた。ベッドの下も見た。ベッド上の三体を撮影した時は「一眼レフだったら」と何度思ったことかしれない。ジッツオを立てて、ノーフラッシュで、三体の人形を撮影したかった。
「なにしろロウソク1本なので、これがまたイライラするほど暗くてね。人形もよく見えない。……ところがしばらくして、その暗さに慣れてくる。すると今度は妙に落ち着くというか、もう十分な光量だと思うようになる。不思議なものだね」

寝室でもジッツオを発見することはできなかった。
彼はふとロウソクを見た。「もうこうなったら」と思った。燭台ごとそれをつかんで、隣室に戻った。

……………………………………   【 つづく 】

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