【 塔のダークサイド 】
以前から「塔」という建物にまつわるダークサイドを、魔談で語ってみたいと思っていた。塔という建物は、潜在的・宿命的に暗黒面を内包している。タロットカード16番「塔」もタイトルは「The Tower」なのだが、そこに描かれた塔は威風堂々と天に向かってそびえ立つ姿ではない。落雷を受け、先端部は破壊され、いままさに崩壊しようとしている姿だ。窓から投げ出され落下している人間も描かれている。じつに悲惨なイメージだ。なぜだろうか。
たとえば(同じような形状の建物である)「灯台」と比較してみよう。灯台がタロットカードの中に入ってきたらどうだろうか。破壊的なイメージを持つ人はまずいるまい。「希望/道標/指標」といった前向きで明るいイメージのカードを連想する人が多いはずだ。灯台をシンボルマークやアイコンにしている企業や団体や映画会社もある。
古来より人間は様々な目的で塔を建設してきた。エッフェル塔や東京タワーのように、現実的には商業的に成功した塔もある。程よい高さの塔、程よい目的のための塔、それは神の怒りに触れないのかもしれない。「出過ぎた塔」は叩かれる運命にあるのかもしれない。
そこで魔談では4回にわたり「叩かれた塔」を語ってみたいと思う。
(1)伝説の塔
(2)戦いの塔
(3)パニックの塔
(4)謎の塔
【 伝説の塔 】
さて本題。
前回の魔談でも話題にしたタロットカード16番「塔」。これを見て、「ははあ、バベルの塔だな」と思う人は多いにちがいない。人類共通に近いトラウマ的「負のイメージ」が塔にあるとすれば、「バベルの塔」がその一因と考える人も多いだろう。旧約聖書「創世記」に出てくる巨大な塔である。
しかしこの名前はあまりにも有名だが、この塔にまつわる奇妙な伝説は御存知だろうか。タロットカードの寓意画で示されているように「バベルの塔は(神の怒りにふれて)落雷で崩壊した」と思っている人が多いのだが、じつはそうではない。
「バベルの塔」エピソードは、ざっくりと整理するとこのような話である。
(1)もともと地上の人々は、すべて同じ言葉を話す一民族だった。
(2)人々は東に移動しつつ生活し、シナル(シュメール)という土地にやってきた。
(3)人々はそこでバビロンという大きな街を建設した。
(4)街は発展し、人々は巨大な塔をそこに建設して自分たちの力を誇示しようとした。
(5)神はその様子を見ていた。「これはひとつこらしめる必要がある」という結論だった。
(6)そこで神は工事中の人々の言葉が互いに全くわからないようにした。
(7)人々は混乱し、巨大な塔の建設は中断した。バビロンは崩壊した。
(8)人々はそこから方々に散って行った。世界には多数の言語が存在することになった。
この奇妙な話は、いったいなにを意味するのか。神は「自らの姿に似せて創りたもう人間」が出過ぎたマネをしたので腹を立てたのだろうか。それなら一発ドドーンと大落雷を塔に与え、一撃のもとに木っ端微塵に崩壊させた方がいかにも「神の怒り」らしいというものである。
アメリカ・イタリアの合作で「天地創造」(1966年)というものすごい映画がある。御覧になったことはあるだろうか。原題からしてすごい。「The Bible」。「さあどうだー」てな感じですな。上映時間175分。ざっと3時間。映画館で観たら途中でトイレ休憩が入るような「古き良き時代の大スペクタクル映画」だ。「ステイホーム」の今の時代、たまには3時間を使って旧約聖書の世界にどっぷりと没頭するのはいかがですかな。
この映画にバベルの塔が出てくる。ニムロデというアホな王が出てきて建設中のバベルの塔に昇り、天に向かって弓を射る。これはいかんでしょう。神に喧嘩を売ってどないすんの?……というシーンだ。案の定というか神は怒り、大嵐が起こる。人夫は吹き飛ばされ、足場は崩れ、塔の一部は破壊される。
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しかし(不思議なことに)実際は旧約聖書のどこを探しても「神がバベルの塔を破壊した」という記述はない。残されたこのエピソードは、明らかに説教的・教訓的な話のように思われてあまり面白くない。あるいはなにか隠された意図があるのかもしれない。
「バビロン」と「バーラル」(ヘブライ語で混乱)から「バベルの塔」が生まれた(異説もある)といわれている。
またその一方で、今も「バベルの塔は実在した」と信じる考古学者たちは、チグリス・ユーフラテス川流域でその基礎部を調べている。「たぶんここに」と期待されている場所もすでに特定されている。「エ・テメン・アン・キ」と呼ばれるその基礎部から推定して、高さ91m、底辺の一辺91m、らせん状・7階建の巨大な塔がかつてそこに存在したとされている。
………………………………… * 魔の塔-1・完 *
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