前回、KD(世界中の灯台を撮影しているカメラマン)の話をした。じつはKDが語ったヨーロッパ灯台談で「これは」という「いわくつきの灯台」がフランスと英国にある。じつに(魔談的に)面白い話なので紹介したい。
【 ジュマン灯台 】
まずは、なにはともあれこの驚異的な写真を御覧いただきたい。
http://feelearth.me/amazingplace/la-jument-brittany
これは津波によって灯台が襲われた写真ではない。もともとこういう孤島に建設された灯台なのだ。確かにこの角度から撮影するためには、ヘリでも飛ばさないことには不可能だろう。最近ではドローンという手もあるが、この灯台に押し寄せている波を見ると、これはもう「大しけ」だ。暴風雨の只中に違いない。波は繰り返しこの灯台に押し寄せ、すさまじい轟音を響かせて炸裂しているのだろう。ドローンのような軽量飛行物体を飛ばすのはまず無理だ。
この写真を撮影したヘリのカメラマンは「もう二度とこの撮影はごめんだ」と言ったそうである。さもありなん。さぞかし命が縮むような思いだっただろう。
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もしこれがホテルだったら、(客はいったいどうやってこの灯台ホテルにたどり着くのか、という疑問がまず浮かぶのだが)、これこそまさに「ホテル暴風雨」だ。客はたどり着く前にことごとく全滅し、ホテルで談笑しているのは幽霊客ばかり、というブラックな絵本はどうだろう。描き手は、もちろん(他界に打診することになるのだが)エドワード・ゴーリーだ。
【 孤高の幽霊灯台 】
悪趣味な想像はさておき、本題。
このジュマン灯台はフランス北西部のブルターニュ州にある。「ブルターニュの海岸」と言えば、フランスでは暴風雨と大波で有名な悪所である。30隻以上の船がこの海岸で沈んだ。そのためこの海岸には多くの灯台がある。その中でも特に有名な灯台が、このジュマン灯台。建設は1875年。高さ300m。なんと今も活動している。
……ということは、このような孤島で毎日のように波にさらされて、なんと146年間も崩壊しなかったことになる。にわかには信じがたい話だ。
しかも「いわくつきの灯台」である。建設当初、ここに常駐した警備員は数ヶ月で発狂した。次の警備員は突然死した。映画「シャイニング」のような話だ。
当然、悪いうわさが広まった。周辺住民からは「呪われた灯台」と恐れられ、だれも常駐警備員に志願しなくなった。しばらくは放置状態となり、灯台としての機能は停止した。
しかし1910年、建設から35年が経過して、ようやく照明が自動化された。常駐警備員の必要はなくなり、無人灯台となってジュマン灯台は息を吹き返したのだ。さらに1994年、自動照明となってから84年が経過して、太陽光パネルが設置された。ジュマン灯台は電源も自ら確保できるようになったのだ。必要がないので、人はますます近づかなくなった。まさに「孤高の灯台」というべきか。
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2015年。ひとりの男がこの灯台に住みたいと言い出した。
最初に紹介した写真の真ん中あたり、人が立っていることに気がつかれただろうと思う。表情までは読み取ることができないが、じつに悠々とした態度でヘリを見上げているように見える。彼の名は、Marc Pointud(マルク・ポインツド)。観光客ではなくこの幽霊灯台に永住希望ほどの男でなければ、このような態度にはならないように見える。永住希望の理由は「この由緒ある灯台が好きだ。もっと多くの人々にこの灯台を知ってもらいたい」だそうである。
それにしても「凄まじい孤独」と言わざるをえない。常駐警備員の必要はないのだから、この灯台に住んでも仕事はない。したがって報酬はない。太陽光パネルがあるのだから、電気代は(当局が大目にみて)無料かもしれない。水や食料はどうするのだろう。友人や支持者が天気の良い日に船で運ぶか、ヘリで落とすかするのだろう。海が荒れ狂っている時にはどのようにして過ごすのだろう。次の瞬間には灯台が崩壊するような物凄い轟音の中で半日か、1日か、あるいは数日間を過ごすなんてことができるのだろうか。
KDいわく。
「私こそが灯台オタクだと思っていたけどね、この人にはかなわない」
* 孤高の幽霊灯台・完 *
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