【 アルフレッド魔談 】(1)

【 アルフレッド・ノーベル 】

魔談は今回から数回にわたる「アルフレッド魔談」を開始したい。アルフレッドとは誰か。アルフレッド・ノーベルである。そう、「ノーベル賞」を創設したノーベル博士である。ではなぜタイトルを「ノーベル魔談」としないのか。それにはもちろん理由があるのだが、簡単に説明できる理由ではない。とはいえ必ず「ああそういう理由だったのか」と納得していただける説明はきちんと書く意欲なので、ぜひ読んでただきたい。

さてアルフレッド・ノーベル(1833ー1896)。
彼は御存知のとおりダイナマイトの発明で巨万の富を築いた人である。だがその発明と名声により、幸福な後半生を送っただろうか。事実はどうも違うようである。幸福どころか、彼は現実世界で「スクルージ体験」をしてしまうのだ。
スクルージ? だれそれ?
と思った方は、ぜひ2022年11月25日から開始の「年末魔談/クリスマス・キャロル」を御覧いただきたい。

「クリスマス・キャロル」(ディケンズ)は、児童文学である。この物語はディズニー映画にもなっているのだが、ちょっとショッキングなホラー的シーンもあり、小学生にはいささかキツイかもしれない。中学生にはぜひ読んで(映画も観て)いただきたい名作である。ここに登場するスクルージというケチンボジジイには「ちょっと酷だな」と読者が苦笑するぐらいの体験的責苦が「これでもかこれでもか」と言わんばかりに次々に否応なく襲いかかってくる。その最も酷なシーンは、自分が死んで喜ぶ人々が次々に出てくることだ。

あなたはどうだろうか。自分が死んだ直後に自分の周囲にいる人々はどんな反応をするだろうか。それを知りたいと思いますか?
「死んだ後のことなどどうでもいい。なんとでも言ってくれ」ですか?
あるいは「少しは悲しむ人がいてほしい」だろうか。

【 自分の死亡記事 】

本題に戻ろう。アルフレッドに降りかかった過酷すぎる体験、それは夢オチのような話ではなかった。
1888年、アルフレッド55歳の時にそれは起こった。ある朝、彼はいつものように新聞を見て驚嘆した。
見出しは「死の商人、死す」。
続いて「アルフレッド・ノーベル博士。可能な限りの最短時間でかつてないほど大勢の人間を殺害する方法を発見し富を築いた人物が、昨日、死亡した」

なんと自分の死亡記事が「死の商人」という見出しつきでデカデカと掲載されていたのだ。
じつは死去したのはアルフレッドではなく、アルフレッドの兄ルドヴィッグ・ノーベル(実業家)だった。まあ新聞ともあろうものが、(新聞の品格にもよるのだろうが)ありえないミスをしたものである。「ノーベルが死んだ」という情報を得た段階で「あのノーベルが死んだ! これは記事だ!」と早合点したのだろうか。しかし個人新聞ならともかく、何人もの手を経て見出しや記事を作成する段階で、関係者の誰も気がつかなかったのだろうか。ともあれ兄を亡くしたアルフレッドはこの一件以来、死後の評価を常に気にするようになった。

しかしまたこの酷すぎる事件がなければ、アルフレッドは自分の死後の評価など、気にすることはなかったかもしれない。その結果、自分の財産の大半を使ってノーベル賞を創設すると遺言することは、なかったかもしれない。ノーベル賞は、なんと新聞のありえないミスから生まれたバタフライ・エフェクトなのだ。

この気の毒な大富豪は生涯独身で、子どもはいなかった。それは彼の望んだ生き方ではなかった。生涯に3度恋愛し、3度とも失敗したのだ、次回はそのあたりを見て行きたい。

【 つづく


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