リチャード・リンクレーターの秀作「30年後の同窓会」

今年も半分経過したが、邦画洋画共に素敵な新作が次々に上映され、映画ファンには真に嬉しい限りだ。最近、また、マイベスト級のアメリカ映画に出逢った。リチャード・リンクレーター監督作品「30年後の同窓会」である。大いに笑ってしんみり、ほろ苦い余韻を残す。
映画の原題は「Last Flag Flying」で、「最後の軍旗掲揚」という意味。最後にその意味が分かる。特に「同窓会」が開かれる訳ではない。監督の前作「6才のボクが、大人になるまで」の原題は「Boyhood」(「少年時代」)であった。2作とも柔らかく上手い邦題にしている。

映画「30年後の同窓会」監督:リチャード・リンクレイター 出演:スティーブ・カレル ブライアン・クランストン ローレンス・フィッシュバーン

監督:リチャード・リンクレイター 出演:スティーブ・カレル ブライアン・クランストン ローレンス・フィッシュバーン

ベトナム戦争に従事した3人の50代のオジサンたちが再会する話だ。2003年の話である。バーのマスターをやっているサルの店に戦友だったドクが突然訪ねてくる。イラク戦争に従事した一人息子が戦死し遺体が帰ってくるので一緒にそれに付き合ってほしいと言うのだ。ドクは少し前に妻にも病気で先立たれている。この二人にもう一人牧師になっている黒人のミューラーも加わりアーリントン墓地に出向き遺体と対面することになる。

映画はその後いろいろな経緯を経て、男たちが列車(アムトラック)で遺体を故郷へと運ぶロードムービーとなる。列車に乗ってからが抜群に面白い。演出は「ドキュメンタリーとドラマの中間」と言ってよく、役者の演技がとても自然だ。特筆すべきは会話が実に生き生きとしていて中身も面白くサイコーなのだ。
3人はよくしゃべっているが、アムトラックの車両でワイ談をするシーンが抱腹絶倒の面白さだ。繰り広げられる会話の面白さに、同世代と言っていい自分ももう一人の乗客となって楽しく話を聞いている気になった(男は馬鹿な生き物だと思う。エロ話に国境は関係ない)。

オヤジたちは三人三様の生き方をしてそれぞれの個性があるが、バー経営のサルが好きだ。少し悪ノリ気味のところもあるが、何をやるのも遠慮がなく自由に好きなように生きている男。親近感を感じてしまう。肝心なところでは他人を気遣う優しさも持っているところもいい。
この俳優は2年前に「トランボ ハリウッドに嫌われた男」で主役を演じたブライアン・クランストンだが、この「30年目の同窓会」でも実に楽しそうに演じている。
映画はシリアスさとユーモアが同居している。大いに笑わせてくれるが、内包するテーマは多い。人生、友情、親子、夫婦の考察と私には取れた。軽く撮られているように見えて、中身はなかなかに濃いのだ。

監督はアメリカのベテラン監督だが、等身大の人物が登場する、人物がよくしゃべる、回想シーンがなく、現在進行形で進むといった映画が多い。
彼には三部作「ビフォア・サンライズ 恋人までの距離」(1995)、「ビフォア・サンセット」(2004)、「ビフォア・ミッドナイト」(2013)がある。これは男女が旅先のウイーンで知り合い(第一作)、パリで再会し(第二作)、結婚し、倦怠期も迎えている(第三作)という話を、18年の流れの中で同じ俳優がずっと演じたものだ。なかなかユニークな映画作りである。男と女のありふれた話なのだが映画としてとても豊かなのだ。

映画「6才のボクが、大人になるまで」監督:リチャード・リンクレイター 出演:エラー・コルトレーン ローレライ・リンクレイター他

監督:リチャード・リンクレイター 出演:エラー・コルトレーン ローレライ・リンクレイター他【amazonで見る】

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さて、好きな映画をもう一本!
リチャード・リンクレイター監督の映画で一番好きなのは、先ほど挙げた「6才のボクが、大人になるまで」だ。これは文字通り、6才の少年が成長していく様子を12年の長きにわたって撮った映画だ。
勿論、記録映画ではなく、父母、姉、本人役の同じ俳優が、時折集まって撮り続けた劇映画である。しかし、これが正に「ドキュメンタリーとフィクションの間」のようになっていて不思議な味わいを持つのだ。

長い年月の間に夫婦は離婚したりする。可愛かった男の子はヒゲも生えた若者へと成長していく。人が生きていくことの愛しさを感じさせる。
役者としてはダメ父親役のイーサン・ホークがいい。離婚していても一生懸命父親役を演じようとする。人間くさくて好きだ。

(by 新村豊三)

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