現代のヤクザを描く「ヤクザと家族 The Family」と「すばらしき家族」

これまでずいぶん日本のヤクザ映画を見て来たが、特に現実のヤクザに関心があったわけではない。しかし、現在公開中の2本の映画「ヤクザと家族」「すばらしき世界」は、純粋に映画として面白いだけでなく、「現在のヤクザ」の生活や意識を知ることが出来る作品だ。今回は、その「ヤクザと家族」「すばらしき家族」を紹介したい。

「ヤクザと家族」監督:藤井道人 出演:綾野剛 舘ひろし 尾野真千子ほか

監督:藤井道人 出演:綾野剛 舘ひろし 尾野真千子ほか

まず、綾野剛が主演の「ヤクザと家族」だ。
映画は1999年、綾野が20代の頃から始まる。舞台は、煙をモクモクと吐く大きな工場群がある海辺の街だ。20代で組に入った綾野は、2005年に人を殺した罪で刑務所に入る。
正直、そこら辺までは自分の今の気分に合わないヤクザ映画だなあ、と思って見ていたが、その14年後、綾野が出所して来てからは、グッと良くなり、これは新しくて面白い今の時代のヤクザ映画だと分かってくる。

今の社会には暴力団対策法が出来ており、「反社勢力」(すなわち、反社会活動をやっていたヤクザ)はヤクザを止めても5年間は携帯が借りられないし、銀行口座も開けないという現実がある。家族も差別的扱いを受ける。受け入れてくれるのは元の組だが、組員も激減し、資金も乏しく、ショボクレている。組長を始めとして「家族」のように接してくれるが、組は変わってしまった。
綾野の人生を描いていくが、入所前、心を許しあった女性はシングルマザーになって公務員をやっている。行きつけの食堂の幼い少年も成長して、チンピラをやっている。競争相手の別の組は覚せい剤をやっているし、そこには悪徳刑事も絡んでいる。というように、多彩な人物が登場する。SNSによる写真の拡散で、彼の過去が明らかにされ、被害を受けるものが出て来る。。。ともかく、綾野の好演もあり、切ない思いで見続けた作品だ。

監督は一昨年「新聞記者」という社会派の作品を撮った藤井道人。世評の高い作品だったが、私には薄っぺらに思えて評価できなかった。しかし、今度の作品は別人が撮ったように優れている。

「すばらしき世界」監督:西川美和 出演:役所広司 仲野太賀 六角精児ほか

監督:西川美和 出演:役所広司 仲野太賀 六角精児ほか

さて、2本目は「すばらしき世界」だ。
人を殺して服役した元受刑者役所広司が、北海道から東京へやって来て職を探して新しい生活を始めていく話だ。「復讐するは我にあり」の直木賞作家佐木隆三の原作があり、映画の発想そのものはそれほどの新味はないと思うが、今の時代に即した話になっており、ディテールが大変面白く展開に惹きつけられる。
支援する身元引受人の弁護士、区のソーシャルワーカー、スーパー店の店長がいる一方、彼を利用してテレビのドキュメント番組を撮ろうと目論む不愉快なテレビのディレクターたちもいる。

実は、主人公を始めとして出てくる人物がなかなか性格的に複雑な人が多く、どんな人物と理解するか、人物をどう捉えたらいいのか、長い時間、やや宙ぶらりんになった。脚本・監督の西川美和はそう意図して撮っている。そこが「映画」として面白いのかもしれないが、自分には落ち着かない感じもあった。
しかし、終盤の30分はとてもいい。役所はやっと介護の施設で働き始める。元々純粋なところと直情径行ですぐに暴力を振るうところがあったのだが、段々、自分を抑える術を身に着けてきている。ところが、老人には親切に接する介護職員数人が、やや知能の足りない職員のことを、陰で悪口を言ってバカにする。その時、役所は自分の意に反して周囲に同調することを言う。いわば人間の持つ二重性に対し、自分を抑えて周囲に合わせる程度には主人公は大人になり「成長」はしたのだ。しかし、やがて、花を愛する、その知能の足りない職員の「純粋」さや自分の偽善に気づいて主人公がウッと泣くシーンには、こちらも思わず涙がこぼれた。今の時代、純粋さを殺して生きていかねばならないのか、という想いゆえである。

この後、主人公は、ある知り合いから電話をもらい、明るい未来が開けてくる予感を抱く。そして、衝撃のラストへと向かっていく(伏線は張ってある)。この一連の映画の展開は本当に素晴らしい。

この映画は撮影もいいのだが、ラストのカメラは、長回しで、彼が暮らすアパートに集まる何人かの人たちを俯瞰で捉え、その後、空へと上がる。「あることを確認して空に昇る」としか書けないが、納得のカメラワークである。
映画を観終わってまず浮かんだ言葉は惹句になっている「この世界は生きづらく、あたたかい」であった。

(by 新村豊三)

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