演出手腕が光る映画。山下敦弘監督の「ハード・コア」とサミュエル・マオス監督の「戦場は踊る」

あまり話題にはなっていないが、監督の力量が光る2作を紹介したい。

まず、日本の山下敦弘監督「ハード・コア」。漫画が原作であり、脚本は山下監督との名コンビ向井康介。

映画「ハード・コア」監督:山下敦弘 出演:山田孝之 佐藤健 荒川良々ほか

「ハード・コア」監督:山下敦弘 出演:山田孝之 佐藤健 荒川良々ほか

日本社会の底辺を生きると言っていい30代の若者二人が右翼団体の会長の下で働き、群馬の山の中で埋蔵金を探す。廃屋になった元薬品工場に捨てられていたロボットを偶然発見して復活させ一緒に作業を進めるというストーリー。
シリアスにしてユーモアに溢れ、荒唐無稽なファンタジーでもある映画だ。

主役の二人を、現場作業員を演じたら右に出る者がいないと言っていい山田孝之と、丸刈りで口を半開きにしたお人よしのイメージがある荒川良々が演じていて、二人ともにこの映画の役にハマっている。
月給7万円、ボロアパートに暮らす主人公の描写から格差社会のリアルな雰囲気が立ち上がる。その中に絶妙なユーモアが入ってくるところがいい。例えば、まだセックスの経験のない荒川が小銭を貯めたお金2万円(「出前一丁」の袋に入っているのが泣かせる)でデリバリー嬢を部屋に呼ぶと、来た女性が50代の海千山千の女である、といった具合だ。

ロボットは旧式でレトロで昭和っぽい。顔も愛嬌がある。リアルな映画の中に存在して違和感がない。洞窟で掘削を手伝う時、さすがロボット、腕をグルグル回し猛スピードで岩石を崩していく。爽快。この時の横長ショットの構図も面白く、シュールにしてナンセンス。
山田には商社に勤めるエリートサラリーマンの弟がいて、NHKの朝ドラ「半分、青い」でロボット研究をしていた佐藤健が演じているのも可笑しい。テレビ同様、映画でもロボットに強くて部品をいじったりする。ロボットは何故か不思議な能力を持っている。これがラストに生きてくる。

映画は前半は絶妙に面白い。劇場はクスクス笑いと爆笑が続く。正直に書くと、惜しいかな、後半ややダレる。山田に関わってくる仕事の上司の淫乱な娘の描写がやや長い。
しかし、驚きのラストシーンが素晴らしい。「完」というエンドマークの後に、それはやって来る。
劇場で見て頂きたいから(あるいはDVDででも)書くのは控えるが、現実を突き抜けていてシュールだが、何故か感動的なラストになっている。冴えない兄ちゃんたちが必死で生きることに闘っているからだろうか。出色。

10本程見ている山下監督の作品の中ではこれが一番好きだ。ロボットが出てくるファンタジックな作品はなかったが、こんな映画も撮れるのか。豊かな才能を持つのだなあ、と感じ入った次第。

映画「運命は踊る」監督:サミュエル・マオス 出演:リオル・アシュケナージ サラ・アドラー ヨナタン・シライ他

監督:サミュエル・マオス 出演:リオル・アシュケナージ サラ・アドラー他

さて、次はイスラエル映画の「運命は踊る」だ。イスラエルに住む中流の暮しをしている中年夫婦の元に息子が戦死したという報が軍隊によってもたらされる。夫婦は悲しみの淵に沈み絶望の日々を送る。それが深刻なタッチで描かれる。
ところが、それが誤報であったことが分かる。すると、映画の舞台は息子が勤務するイスラエルと隣国の国境の検問所へと移る。
若者4人がここで勤務しているが、ここでの仕事ぶりと生活の描き方がなかなかに面白い。車を止めて身分証などを確認して検問所のバーを上げて通す仕事を行う。緊張感は一見全くない。ラクダがのんびり横切ったりする。

若者たちは少々傾いた営舎で暮らしている。モノが落ちるとゴロゴロと転がる。食べる食事は缶詰ばかりだ。紛争の最前線なのに、これまたユーモアとシュールな味わいがある。
ところが、ある時、検問所で悲劇が生まれてしまう。それまでののんびりした調子が一変する。
本国の親は自分の息子が生きていると分かるとそれを確認したくて検問所にいる息子に電話を掛ける。そこからまた、ある大変な事態が生まれていく。

パートによって異なる演出を見せるサミュエル・マオス監督は相当な練達の士であると思う。その的確な演出によって、生きるという事は悲劇と喜劇が隣り合わせだ、ジンセイとは時に不条理だと言っているようだ。

(by 新村豊三)

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