フランスも上手く行っていないようで、先日は燃料税を巡って全仏でストが起きてしまった。若き指導者マクロン大統領はこれからも苦労が続くだろう。
さて、今回はそのフランスの田舎の風景を魅力的に撮った映画2本を紹介したい。国全体の問題は問題として、この2本の映画にはそれぞれ地に足をつけてゆっくりと生きる時間感覚があり、何だかゆったりした気分になる。
まず、ブルゴーニュでのワイン作りを描いた「おかえり、ブルゴーニュへ」。ワインにはあまり関心がないが、心が晴れ晴れとするような綺麗な自然の風景が見られるのではないかと期待して見に行ったら、大満足。
ワイン農場の四季折々が美しく撮影されている。横長ワイドスクリーンが見事に生かされワイン畑の広がりと自然の様子に惚れ惚れする。
家を出て放浪し豪州にいた3人きょうだいの長兄が10年ぶりに帰郷する。父親の死を経験し、ワイナリーを所有している妹と弟と初めてのワイン作りを行う。3人はそれぞれ家庭の事情を抱えているし親の死後に相続の問題も発生するが、何とか乗り越えていこうとする。
一年を通してワイン製作の過程が分かるのもいい。初めて知ったことばかりだが、ワイン作りはかなりアナログというか手作業に負っている。ブドウの果梗をどれくらい除去するかも人が決めたりする。極めて人間臭い。
収穫時はバイトが何十人も集まり籠を背負ってハサミでブドウの房を刈り取っていく。激しい肉体労働が続いた後の「収穫祭」は夜を徹しての飲めや歌えのどんちゃん騒ぎになるところもいい。宴のエネルギーには圧倒される。またブドウを大きな樽の中に入れて発酵させるが、樽の中に人が裸足で入って踏んづける作業にも驚く。
シナリオもよく練られている。長兄は豪州にいる妻とは実は上手く行っていない。そこから生まれる人間ドラマも面白い。フランス映画には珍しく(?)いろいろな問題が上手く解決されるハッピーエンドだが、そこが明るくてこちらの気持ちも晴れやかになる。ワイン作りも人生も熟成が大事という事が自然に伝わる。
この監督セドリック・クラピッシュはフランスでの人気監督だそうだが、相当に力がある、と見た。
2本目はドキュメンタリーの「顔たち、ところどころ」。撮影時89歳の女性監督アニエス・ヴァルダと写真アーティストのJRが旅に出てフランスの田舎の各地の人々の写真を撮っていくロードムーヴィーだ。オカッパ頭で小柄なアニエスと黒サングラスをかけた長身の54歳年下のJRのコンビがユニーク。
乗って旅するその車は、車体の側面がカメラの絵になっている。車にはスタジオが取り付けられ、写真を撮ってプリントアウトすると、デカい写真がそのカメラの真ん中から出てくる構造になっていることに驚かされる。
二人は炭鉱で、海岸で、様々なところで写真を撮っていく。全てそこに生活する人たちの顔の表情だ。
ル・アーブルの港では港湾労働者の3人の奥さんの写真を撮る。後ろにコンテナを何台も積み上げてその上からその巨大な写真を垂らす。その上、その奥さんたちは写真の胸の位置に当たるところから恥ずかしげに現れて(コンテナだから後ろから入れるのだ)手を振るのだ。この自由な発想には心底感動した。人間が自然の風景に拮抗できるとすれば、きっと芸術だけではないか。
さて、好きな映画をもう一本!
「ヌーヴェルバーグの祖母」と呼ばれるアニエス・ヴァルダの作品は不勉強で見ていないが、御主人のジャック・ドウミの作品を一つ。
1964年製作のカトリーヌ・ドヌーヴのデヴュー作(まだ彼女は19歳)「シェルブールの雨傘」が好きだ。先のル・アーブルから遠くはない港町シェルブールを舞台にした、恋人が戦場に行ったため別の男と結婚することになる若い女の悲恋を描く。台詞全てが歌の歌詞になっている。雪のクリスマス・イヴのガソリンスタンドの別れの切なさは忘れ難い。
(by 新村豊三)
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