今年のアカデミー賞作品賞の「グリーンブック」が素晴らしい。1962年のアメリカで黒人ピアノ奏者シャーリーがイタリア人のトニーを用心棒兼運転手として雇って、演奏旅行のため8週間南部を車でまわるロードムービーだ。
勿論、人種差別の問題も盛り込まれているが、実に心根の優しい素敵な映画であった。大いに笑って涙も出た。自分はこんな映画が好きなんだなと改めて思った。
人種差別が激しかった頃、黒人が雇い主で白人が雇われるという逆転の設定からして面白いが、これが実話と知って益々驚く。
二人の立場や性格は全く違うのだが、旅行を続ける中で相手の長所を認め人間的に成長していくプロセスが抜群にいい。
エリートピアニストで最初は気取ってイヤな奴に見えるシャーリーが、実は家庭も上手く行かずまたバイセクシュアルでもあり悩みを抱えていることが分かってくる。孤独な人生を生きている。しかし、頑なな心を開いていく。トニーに対しては「すぐに怒らない方がいい。人には品格が必要だ」と諭してあげたりする。
トニーはガサツだけど世間を知っている。トラブルが起きた時警官をお金で丸め込み問題を解決する。何でそんなことをするのだと聞くシャーリーに対しても「世間は複雑なんだ。裏も表も必要」と言ったりする。
人種差別の厳しい現実も描かれる。大邸宅で演奏していても、シャーリーは白人と同じ建物の中のトイレを使うのが許されない。外にある粗末な小さなトイレを使えと指さされるシーンの残酷さ。音楽を聴きに来た白人たちの偽善を感じてしまう。
ラストのタイトルクレジットにプロデューサーの一人として黒人実力派女優のオクタヴィア・スペンサーの名前を見かけた。彼女は「ヘルプ~心がつなぐストーリー~」で60年代、白人の家で家政婦として働く女性の役を演じてアカデミー助演女優賞を取って世に出てきた人だ。彼女もこの映画に関わっているのは、まだまだ今の時代でも人種差別の意識が残っているからだろう。トランプが大統領の国であるし。
脚本が実によく出来ている。こうなってほしいと思うように物語が動く。一例を挙げると、差別に抗議して最後の演奏を拒否して二人は地元のバーに行く。ここで一発(?)、シャーリーよ、皆のために演奏をしてくれないかと思うと、嬉しいことにそうなる! またその演奏が素晴らしい。
詳述するスペースがないが音楽もいい。一方でこちらの予想を裏切って面白く展開するシーンもある。流石、アカデミー脚本賞受賞だと思う。
とにかく、心が涼やかになり人間を信頼したくなる映画として一見をお勧めしたい作品だ。
さて、好きな映画をもう一本。あまり話題になっていないようだが日本映画「半世界」も優れた作品だ。「グリーンブック」が男二人の友情のドラマであれば、こちらは男3人、中年になった中学同級生の友情の話だ。
三重県で2代に渡り炭焼きをやっている稲垣吾郎の元に昔の友人長谷川博己が現れる。自衛隊員として海外勤務をした後メンタルを病み、自衛隊を辞めて故郷へ帰ってきたのだ。地元で働く渋川清彦も加わり、昔のヤンチャな少年時代を思い出して旧交を温める。
この映画が異色なのは炭焼きのプロセスも丁寧に描かれること。山での木の伐採、窯に入れての炭焼き、そして飛び込みのセールスまで含めた販売だ。かなりな重労働であることが理解される。
孤独で地味な仕事に黙々と励む主人公を稲垣が好演。家には不良連中にイジメを受ける中学生の息子がいて、その対応にも苦労している。見ながら、次第に、稲垣が仕事と家庭に問題を抱えつつしっかり生きているなあ、と思えてきた。
彼に対して感情移入した時、あることが起きる。大事な肝なので、これは絶対に書けない。しかし、この事を妻(池脇千鶴、好演)が電車の中で知るシーンは本当に切ない。
その後の展開も見事である。是非見てほしい日本映画の最近の逸品だと思う。
(by 新村豊三)
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