将棋ストーリー「王の腹から銀を打て」第3回

カズオはスリッパをはいて部屋を出ていこうとしている。
「あ、ちょっと待って」
呼び止めてトモアキはこども将棋大会のチラシを見せた。
「こういうのあるんだけど、よかったら出てみない?」
カズオはトモアキより背が高かった。チラシを読んでいる。
「次の次の日曜日。出たいんだけど、メンバーが足りないんだ。どうかな?」
カズオがにこっと笑った。
「おもしろそうだね」
「じゃあ?」
「うん、出られると思う」
やった、とトモアキは思った。知らない子を誘うなんてひやひやもんだったけど、心配することなかった。いいやつみたいじゃないか。

近藤さんとの将棋が終わるのを待ってもらって、トモアキはカズオといっしょに西公民館を出た。
「そうか、新庄くん、引っ越してきたばかりなんだ。どうりで知らない顔だと思った。小学校は青葉小じゃないよね?」
「うん、電車で通ってるんだ。私立だから」
「それにしても強いね。ぼくは宮原さんには連戦連敗だよ」
「兄さんに教えてもらってるから。兄さんは四段なんだ」
「四段? うおっ、すげえ」
二人は電話番号を教えあって、郵便局の角でわかれた。
トモアキは、ほくほくした良い気分だった。あきらめていた将棋大会に出られそうになってきたのだから、それも当然だろう。大会で勝つところを想像して思わずほおがゆるんでしまうほどだった。

ところがカズオの方はというと、トモアキと話しているときは楽しかったのだが、うちにもどってしばらくすると、まよいが出てきた。一人になって考えてみたら、どうも気楽に引き受けすぎたような気がしてきたのだ。
トモアキとは今日初めて会ったのだし、トモアキがつれてくるというほかのメンバーは顔も知らない。将棋は好きだが団体戦に出たことはないし、会場の福祉会館の場所も知らない。
不安になる材料はたくさんあった。

――――続く

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