将棋ストーリー「王の腹から銀を打て」第2回

将棋好きのトモアキはこの二月から将棋同好会に顔を出すようになった。
毎月第二第四日曜日に西公民館で将棋を指す集まりだ。

先々週、何度か顔をあわせていくらか親しくなってきた宮原さんが、一枚のチラシをくれながら言った。
「林くん、大会に出てみないか?」
チラシには大きな字で「こども将棋大会」と書いてある。
将棋に限らず、何か競技をやっている者、特にまだ初心者くらいの者にとって、大会とか選手権試合とかいうことばは、すごく魅力的だ。わくわくドキドキする緊張感がある。

トモアキは学校の将棋クラブに入っているが、大会と名のつくものにはまだ一度も出たことがない。出てみたいと思った。
しかし、宮原さんは続けてこう言った。
「五人の団体戦なんだが――」
将棋は二人でやるゲームなのに、団体戦ってなんだろう?
宮原さんは説明してくれた。なかまと相談しながら将棋を指すわけではない。五人がチームになってそれぞれが相手チームの五人と対戦し、三勝以上あげたチームが勝ちになる。

トモアキはがっかりした。五人じゃメンバーが集まらない。
「学校の友達はどうだい? 将棋クラブなんだろ」
「レベル低いんです。ぼくともう一人は本将棋やるけど、ほかは将棋クラブってより、まわり将棋クラブで」
「本将棋は指せないの?」
「指せないことはないけど……」
ルールは知ってるって程度だから戦力にならない。熱心でもないから、そもそも誘っても来るかどうか。
そんなわけでそのときはあきらめた。

しかし今、トモアキの目の前には、新庄カズオがいる。強さはもんくなしだ。もし、カズオがなかまになってくれれば、まともに指せるのが三人になる。五人の団体戦ではこの一人が大違いだ。二勝では負けだが、三勝なら勝ちなのだ。

この日、トモアキはまず小野寺さんと、それから近藤さんと対戦した。対戦しながらも大会のことを考えていると、カズオが宮原さんとの将棋を終えて、帰りそうになった。
(いま声をかけなきゃ)
トモアキは思い切って立ち上がった。

――――続く

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