将棋ストーリー「王の腹から銀を打て」第25回

梅雨入りして二週間がすぎた。いよいよ本番だぞとばかり、雨の日が続いている。
このところアサ子はゆううつだった。雨のせいではない。思うように将棋が上達しないのだ。

六月の初めにアサ子は先生に話して、読書クラブから将棋クラブに変わった。青葉小のクラブは五六年生の科目になっているが、顧問の落合先生は、相手が優等生のアサ子だからか、あんがい物分かりがよくて、四年生のトオルの参加も許してくれた。おかげでまわり将棋クラブの人たちを誘わなくても、トモアキ、ジュン、アサ子、トオルの四人で相手を変えながらちょうどよく練習できるようになった。

アサ子はトオルと西公民館にも通うようになっているから、水曜日は学校の将棋クラブ、日曜日は西公民館の同好会かカズオのうちの研究会と、将棋を勉強する環境はずいぶん整ったわけだ。

シュウイチが言った通り、公式戦を作ったことはアサ子たちの活動に活気を与えた。みんな昇級規定の五連勝を目指してがんばっている。ただ、これはシュウイチが決めた級が正しかった証拠でもあるのだが、手合い割り表にしたがってコマ落ちでやると、勝ったり負けたりいい勝負で、なかなか五連勝するものが出てこない。

それでも惜しいところまでいく者と、そうでない者がいる。ノートをあずかっているアサ子にはみんなの成績がいやでもよくわかる。今のところ成績がいいのはカズオで、ジュンとトオルはまあまあ、悪いのがトモアキとアサ子なのだ。
カズオはあと一勝で昇級の四連勝を二度もやっているが、アサ子は三連勝もない。それどころか――七連敗というのもある。規定があったら、昇級どころか降級しているところだ。

アサ子はシュウイチに将棋の本を借りて家でも勉強している。
棋譜を読めるようになったし、「囲い」も覚えた。囲いとは王を守る形のことだ。矢倉囲い、美濃囲い、舟囲い、いろいろある。
戦法もいくつか覚えた。戦法は攻撃の主役となる飛車の使い方によって大きく二つに分かれている。飛車を最初に並べたままの位置で使うのが居飛車戦法で、横に動かして使うのが振り飛車戦法だ。
これだけ覚えればかなり強くなったはずだと思うのに、実戦となるとなぜか勝てない。

――――続く

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