第16回 番外編「自転車、優雅に叱責する」

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柔らかな風が吹く休日の昼下がり。のどか過ぎる空気感が至るところに漂い、うつらうつらと午睡を促す。ケロミは昼食後からずっとソファでごろごろしていて、もったりとした気分に陥っていた。しまいには、よだれを垂らしながら船をこいでいたが、双子の姉のネ子とウサ子がキッチンで何か作っている物音で起こされた。

「ふあぁ~!」

大きく伸びをして、時計を見るとまだ2時前である。窓には、青い空が広がり光が満ちている。

「今日で冬休みも最後だな。もうちっと有意義に過ごすか……」

久々に親友のダイス君の家に行こうかと思い付いた。ダイス君とは、オモッチーランドで偶然会って以来会っていない。(オモッチーランドとは、「餅」に特化した大人気のアミューズメントパークのこと。アトラクションや温泉や多種多様のお餅を入園料のみで提供している夢のランドでR。)そのオモッチーランドで買った「人生ゲーム~餅長者編~」でもして遊ぼうと、ゲーム盤をリュックに詰めた。

「ちょっくら、ダイス君家いってきまーす」

外に出ると、自転車を車庫から引っ張りだした。サイクリングがてら、ダイス君宅へいざ出発!意気揚々とケロミはサドルに腰をかけた。すると、自転車はメシっと数センチ沈んだ。

「ん?」

それきりピクリとも動かない。

「あれー?壊れたかな?」

ケロミがつぶやくと、急に自転車がブルッと大きく震えた。

「パチッ」

スイッチが入るような音が聞こえた。

そして、透き通るように涼やかだが、同時に重厚感も併せ持つ貴族的な音声が自転車から発せられた。

「あなた、重いんです」

その音声はとても優雅な語り口だが、怒気を含んでいるのが伝わった。

「あー…、自転車の会話機能がオンになっちゃったのかな……?」

と、ケロミがスイッチを探そうとすると自転車がケロミを振り落とし軽やかに逃げた。

「痛っ……!」

振り落とされたケロミは尻餅をついた。痛そうに尻をさするケロミに自転車が堂々とした態度で臆びれもせず近寄ってきた。

「スイッチなど低レベルなものを私に探すのはやめなさい」

自転車の高飛車で優雅な口調に圧倒され、ケロミはつい謝った。

「ご、ごめん」

自転車は、見下ろすようにハンドルを曲げながら、尻餅をついたままのケロミの周りをゆっくりと回り始めた。

「全自動ハイテクノロジーAI知能付きの素晴らしい自転車の私ですが、超過重量には対応してないんです」

自転車は、多弁だった。

「あなた、前よりかなり重くなりましたよねぇ?」

サドルが嘲笑するように少し震えた。

「しかも、あなた餅臭いんですよ」

自転車は、どうやら言いたいことをずけずけ言うタイプのようだ。

「あなたのように重くて餅臭い方は、この素晴らしい私に乗る資格はありません。では、さようなら。ごきげんよう」

そう言い捨てるとガラガラと音をたて、ケロミを残して行ってしまった。最先端機能つきとは決して思えない、スムーズといえない動きで。

ちょうど自転車とすれ違って、向こうから弟の鷹蜜がやってきた。

「今、ケロねぇの自転車がひとりで走ってったよ。しかもなんか、「トラ・ラ」とかブツブツ言ってた」

「うん。行っちゃったんだよ。何か私は乗せたくないらしいんだよね……」

「ふぅん」

自転車の行った先を二人は見ていた。すると、自転車は、10軒先のゴーリー家の前で止まった。どうやら塀の中にゴーリー家の姉弟がいるようである。自転車は、姉弟を伺うように見ていたが、敷地内に入っていってしまった。しばらくして、自転車がゴーリー家から出てきた。ゴーリー家の姉エンブリーと弟のユーバートが自転車の上に乗っている。

「あの子たち二人分よりも私は重いってこと!?」

ケロミは歯ぎしりをした。

ゴーリー家の姉弟を乗せた自転車は、軽やかに迷いもなくどんどんと向こうに進んでいく様子である。

自転車は、「ひひーん」と馬のいななきのような車輪がきしむ音をケロミ達のいるところまで一度だけ響かせた。前輪が上がった。

優雅にゴーリー家の兄妹を乗せた自転車は、どんどん遠退いて、しまいにはケロミ達の視界から消えてしまった。

「自転車、なくなって残念だね」

鷹蜜が目尻を下げいかにも残念そうな顔をした。

「うん、でも、あれ野良自転車が家にいついただけだったじゃんか。だからいいや」

「しかも、ペダルないよね?」

「全自動だからじゃない?」

こうしてケロミと鷹蜜の姉弟は、ケロミの体重増加と餅臭さが幸いして、173年続くサイクリングをすることもなく命拾いをした結果になった。しかし、ケロミ達はそんなことは知るはずもない。ただケロミの心に去来する思いは、

「私、かなり太っちゃったかな…」

であった。アンニュイな顔つきのケロミを見て鷹蜜が気を効かせて言った。

「ケロねぇ、ネコねぇ達があんみつ作ってるはずだよ。食べようよ。アイスも買ってきたよ。もちろん、ギュウヒ餅も沢山いれてさ!」

「いいねぇ!」

ケロミは、ケロリと太ったことも自転車のことも忘れて、鷹蜜とともに、カロリー過多のギュウヒ増量あんみつを食べるため家の中へと戻っていったのであった。

(完)


浅羽容子作「シメさばケロ美の小冒険」第16回・番外編、いかがでしたでしょうか?

今回のお話は、エドワード・ゴーリー作「優雅に叱責する自転車」へのオマージュ作です。姉弟を乗せた奇妙な自転車がこの後どうなるのか?気になった方はぜひ読んでみてください。

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次回もどうぞお楽しみに!

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