別訳【夢中問答集】第四十六問 他人の批判をしてはダメ? 3/3話

百丈和尚は大勢を相手に講義をした際、しばしば終了後に会場を後にしようとする弟子たちに向かって「オイ、オマエら!!」と声をかけることがあったそうじゃ。

そして百丈和尚は弟子たちが振り返ったのを見て「これはいったい何だ?」と尋ねたとか。

これがいわゆる「百丈和尚、解散時のひとこと」というヤツなのじゃが、これを文字通り理解しようとしてみても意味不明だし、弟子たちの見解を試しているようであって、実はそうでもない。

それでは百丈和尚はいったい何がやりたかったのか?

もしこのことが理解できたなら、人生における全ての疑問は一瞬で解消することじゃろう。

昔、亮座主(りょうざす)と呼ばれる研究者がいてな、彼は仏教の解説書を全て読破し、自分なりの理論も打ち立てて独自の学派を成し、大勢の学生相手に長年講義を続けておった。

あるとき亮座主と馬大師が問答を交わす機会があったのじゃが、亮座主は納得できずに立ち去ろうとしたのじゃ。

すると後ろから馬大師が「座主!」と声をかけてきたので、振り向いた瞬間に「これは何だ?」とやられた。

その瞬間、亮座主は究極の真実を悟ったという。

この人は長年仏教を研究して教理に通達しておりながら悟れていなかったところ、馬大師のひとことで悟ることができた。

「悟りは理屈と関係ない」ということが、実に鮮やかに示されておるとは思わんか?

今どきの修行者を見ておると「学問に一生を捧げる!」という意思を固めている者が多々あるが、そのぐらいの剣幕で日常生活と向き合って「気持ち」の発生と消滅を注視し続けることができたなら必ずや南岳和尚や亮座主のようになれるのに、なんとももったいないことじゃよ。
他人の批判を繰り返し、他人からの評価ばかり気にして一生を終わってしまうというのでは、せっかく人間に生まれた甲斐がないよなぁ。


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