別訳【夢中問答集】第五十二問 禅宗は修行の基本を軽視している? 2/2話

昔の修行者は今どきの連中とは違い、迷いは捨てきれていなくても「本分は誰でも必ず備わっている」ということを疑うことはなかったので、自分の修行の仕方が正しいかどうかを他人に尋ねることなどなかった。

指導者のところで尋ねることはといえば、「仏とは何か?」「禅とは何か?」「仏法の真意とは何か?」「達磨大師が中国に来た意味は何か?」「悟りの境地とはどんなものか?」といった直球勝負のものばかり。

だから指導者の側も「心、それが仏だ」「庭先に柏槙の樹が生えている」「山が川を流れていく」といった直球で回答したもんじゃ。

これは「本分」というものの本質をズバリひと言で表そうとしたのであって、決してボケをかましたのでも研究資料の足しにしてもらおうとしたのでもない。

だから修行者の側はその回答について一晩、あるいは一ヶ月、はたまた五年、十年と考え続けたものであって、それがそのまま修行にもなった。

多宗派が基本的な修行セットを用意して取り組ませるのとはわけが違う。
「教外別伝(きょうげべつでん)」のキャッチフレーズは伊達ではないのじゃ。

なのに今どきの連中ときたら「教外別伝」の趣旨をすっかり忘れてしまって、有名な指導者のところを尋ねまわって「修行の仕方」を教えてもらおうとする有様じゃ。

で、指導者の側も手取り足取り基本的なことを教えたりしておる。

また宿題として公案を与える指導者もおるのだが、あの世で楽をするために念仏を唱えたり神通力を得るために呪文を唱えたりするのと同じノリでやるもんだから、修行者の側も指導者を採点して「あの人は上手」とか「下手」とかの評判をたてる始末・・・・・・

こんなものに何の意味もないことは、言うまでもないことじゃな。


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