足利直義:なるほど・・・
ちなみにですが、和尚は今、「工夫」と仰いましたよね?
しばしば「万事の中に工夫する人」とか「工夫の中に万事をする人」とかいう話を聞くのですが、「万事」と「工夫」は何が違うのでしょうか?
夢窓国師:「工夫」とは、中国語で「鍛錬」または、それに投入した「時間や労力」を意味する言葉じゃ。
だからどんな職業の中にもあるものであって、例えば農家の「工夫」は野良仕事にあるし、大工の「工夫」は建築にある。
そういった言葉を借りて修行のことを「工夫」と呼んだのじゃな。
本当に禅の修行がわかっている者にとっては、「万事」と「工夫」の区別などない。
しかし修行を始めたばかりの者や究極の真実を求める気持ちの薄い者にとっては「万事」、つまり日常生活の方が主になるので、座禅などは日課として時間を決めて実施することになる。
今、道場では四時に座禅をする習わしになっておるが、これはたかだか百年ぐらいの歴史しかないものじゃ。
昔の修行者は特定の道場だけではなく樹の下や石の上で、それこそ寝食を忘れて修行に取り組んだものじゃ。
一日二十四時間のうち「工夫」をしていない時などなかった。
それがどうじゃ。
今や修行の動機が「親に言われて仕方なく」とか「会社勤めがイヤになったから」みたいなのばかりになってしまって、食事の時は食欲に支配されて「工夫」を忘れ、お経を読むときは「読む」あるいは「唱える」ことに気を取られて「工夫」を忘れる始末。
それ以外にも諸々の雑事に気を取られ、結局ほとんど実のある「工夫」をすることなく一生を終わってしまう。
そうならないために、せめて「四時に座禅をしよう」ということにしたのであって、「それ以外の時は『工夫』しなくてよい」ということではないのじゃ。
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