サーラナ王子の悪夢 前編(出典:雑宝蔵経)

今より2000年以上昔の話です。

古代インドの王国のひとつであるコーサンビー国を治めるウダヤナ王には、サーラナ(娑羅那)という名の王子がおりました。

ある時、サーラナ王子が山の中で当時の流行に習って出家修行に励んでいたところ、大勢の美女たちがやってくるのと出会いました。
美女たちの求めに応じ、サーラナ王子はあれこれとためになるお話をしてあげました。
美女たちは大層喜んで、和やかな雰囲気で交流は進んでいたのですが、ふと気づくと、なにやら後ろの方で、コワイおじさんが睨んでいるではありませんか。

おじさんは言いました。

「こら、オマエ! オマエはいったい何様だ!? 見たところ修行中の坊主のようだが、最高の境地と呼ばれる「阿羅漢(あらかん)」の悟りを得た者か?」

サーラナ:「いいえ、違います・・・」

おじさん:「それでは2番目に高い境地と呼ばれる「阿那含(あなごん)」の悟りを得た者か?」
サーラナ:「それも違います・・・」

おじさん:「それでは3番目に高い境地と呼ばれる「斯陀含(しだごん)」の悟りを得た者か?」
サーラナ:「それも違います・・・」

おじさん:「それでは4番目に高い境地と呼ばれる「須陀洹(しゅだおん)」の悟りを得た者か?」
サーラナ:「それも違います・・・」

おじさん:「最低でも、人間の肉体など汚いばっかりだという「不浄観」の悟りぐらい得ているんだろうな?」
サーラナ:「いや、実はそれも違うんです・・・」

おじさん:「それじゃオマエは単なる一般人ではないか! いいか? このオレ様はあの強国コーサラ国の王だ! そして、この女たちはみんなオレ様のハーレムの女なのだ。一般人の分際でオレ様の女と馴れ馴れしくしゃべりやがって! 許せん!」

そしてコーサラ王はサーラナをムチでメッタ打ちにしました。

女たちが「この人は何も悪くありません!」と言えば言うほど、女たちが泣けば泣くほど王はいきりたち、ますます強くムチで打つのでした。

サーラナはボコボコにされながら思いました。

「な、なんだこの理不尽な仕打ちは!? ・・・しかも、このくだりはどこかで聞いたことがあるぞ。そうだ、かつてブッダが修行中だった時の話だ!確かあの時、ブッダは耳や鼻、手足を切り落とされても耐えぬいて、それで究極の悟りを得たのだとか。それに比べたら今の私の苦しみなどまだまだ・・・」

ようやく打擲が終わり、苦難は過ぎ去ったかのように思われたのも束の間、打たれたキズは時間が経つごとに痛みが激しくなってきます。

サーラナは痛みに耐えかねて思いました。

「ちくしょう、あのオッサンめ! 人が無抵抗なのをよいことにやりたい放題やりやがって! 何が王様だ! オレだって王子だぞ。家に帰れば国王の地位を継げるんだ。我が国の兵力だって、決してアイツの国に劣るもんか! ちくしょう! ちくしょう!・・・」

そして遂に、師匠であるカッチャーナ(仏十大弟子のひとり、迦旃延尊者)のところに行き、一方的に修行の中止を宣言すると、家に帰ってしまいました。

帰ってみると、ちょうど国王だった父親が亡くなったところだったので、サーラナは直ちに王位を継ぎ、怨みを晴らすべく軍備を整えてコーサラ国に攻め込んだのです。

―――――つづく

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